世界一孤独なピアニストは、恋の調律師に溶けてゆく
夕暮れが差し込むリビング。
段ボールの山はまだ半分以上崩れていない。

湊はソファに腰かけ、スマホを開いた。
フードデリバリーアプリ「デリまる」の画面をスクロールしている。

「お腹すいた〜! 笠松さん、なんか食べ物〜!」

璃子が寝転びながら、ソファのクッションを叩く。

「……外商部門の人を何だと思ってるんだ」

「だって! お鍋やグラスはすぐ持ってきてくれたし」

「それは引っ越し祝いのギフト対応だからでしょ。ネギ一本外商に持ってこさせるのはダメって自分で言ってたじゃん」

「それとこれとは話が別なの」

湊は思わず、心の中で「どっちもどっち」と呟きながら、スマホの画面を璃子に向ける。

「なあ璃子、何食べたい?」

璃子はむくっと起き上がり、湊の隣まで早歩きでやってきた。
スマホを覗き込むと、目を見開いて声を上げる。

「えっ、何これ! アプリでごはん頼めるの!? え〜〜〜!!」

「うん、『デリまる』。引っ越しあるあるだよ。初日は冷蔵庫空っぽだから、頼むしかないでしょ」

「天才! 湊くん天才すぎ!」

そう言って璃子は湊の肩をバンバン叩く。ちょっと痛い。

「……ほんと、生粋のお嬢様だな」

湊は、声には出さず、いつものように心の中でつぶやいた。
でも──その無邪気さが、この部屋をあたたかくしてくれているのも事実だった。
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