世界一孤独なピアニストは、恋の調律師に溶けてゆく
インターフォン越しに見えたのは、見慣れた姿だった。
KANEROの社長であり、調律師の金城 創。
そして、その隣に立つ、どこかで見たような……いや、見たに決まっている。
創がにこやかに言う。
「明けましておめでとうございます、璃子さん」
璃子は、やや緊張の面持ちを綻ばせて、ぺこりと頭を下げる。
「おけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
創は笑いながら、傍らの男性に目をやる。
「今日は、紹介したい人がいてね。うちの息子、湊(みなと)だ」
その瞬間、璃子の中で時間が止まった。
あの日――クリスマスの午後。あの百貨店。あのピアノ。
男は、ふわりと柔らかい笑みを浮かべる。
「初めまして。金城 湊です」
璃子は反射的に、深く頭を下げた。
(うそ……やっぱり、あのときの人……)
そのまま顔を上げられずにいると、彼がいたずらっぽく言った。
「覚えてない……ってことは、ないですよね?あれ、璃子さんだったんですね」
目が合う。彼は声を抑えて笑いながら、
「やっぱり、初心者じゃなかった」
創が眉を上げる。
「え、どこかで会ったの?」
湊は軽くうなずいた。
「うん。藤ヶ谷百貨店で試奏会やったでしょ?あそこで、初めてピアノに触ります~みたいな感じで来ててさ。怪しいなって思ったんだけど……まさか、朝比奈さんのお嬢さんだったとはね」
璃子は、顔が真っ赤になるのを自覚しながら、口を開いた。
「あの、その節は……ごめんなさい。なんだか、気まずくて……」
湊は、からかうような口調をやや緩めて、優しい目で続ける。
「いいえ。だから、どこかで見たことあるって思ってたんですよ。まさか、調律で来てる家の娘さんだったとは」
創は、ふふっと笑いながら、
「なんだ、そういうことか。面白い偶然だねぇ」
と、実にのんきに言った。
そしてリビングに案内する直前、璃子の胸の奥では、またあの微かなざわめきが始まっていた。
バレた。だけど、嫌じゃない。
――むしろ、少しだけ、くすぐったい。
KANEROの社長であり、調律師の金城 創。
そして、その隣に立つ、どこかで見たような……いや、見たに決まっている。
創がにこやかに言う。
「明けましておめでとうございます、璃子さん」
璃子は、やや緊張の面持ちを綻ばせて、ぺこりと頭を下げる。
「おけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
創は笑いながら、傍らの男性に目をやる。
「今日は、紹介したい人がいてね。うちの息子、湊(みなと)だ」
その瞬間、璃子の中で時間が止まった。
あの日――クリスマスの午後。あの百貨店。あのピアノ。
男は、ふわりと柔らかい笑みを浮かべる。
「初めまして。金城 湊です」
璃子は反射的に、深く頭を下げた。
(うそ……やっぱり、あのときの人……)
そのまま顔を上げられずにいると、彼がいたずらっぽく言った。
「覚えてない……ってことは、ないですよね?あれ、璃子さんだったんですね」
目が合う。彼は声を抑えて笑いながら、
「やっぱり、初心者じゃなかった」
創が眉を上げる。
「え、どこかで会ったの?」
湊は軽くうなずいた。
「うん。藤ヶ谷百貨店で試奏会やったでしょ?あそこで、初めてピアノに触ります~みたいな感じで来ててさ。怪しいなって思ったんだけど……まさか、朝比奈さんのお嬢さんだったとはね」
璃子は、顔が真っ赤になるのを自覚しながら、口を開いた。
「あの、その節は……ごめんなさい。なんだか、気まずくて……」
湊は、からかうような口調をやや緩めて、優しい目で続ける。
「いいえ。だから、どこかで見たことあるって思ってたんですよ。まさか、調律で来てる家の娘さんだったとは」
創は、ふふっと笑いながら、
「なんだ、そういうことか。面白い偶然だねぇ」
と、実にのんきに言った。
そしてリビングに案内する直前、璃子の胸の奥では、またあの微かなざわめきが始まっていた。
バレた。だけど、嫌じゃない。
――むしろ、少しだけ、くすぐったい。