世界一孤独なピアニストは、恋の調律師に溶けてゆく
璃子は二人にお茶を出し、深く腰を下ろした。
客人に対しての礼儀は、母からたたき込まれたものだったが、今はそれが逆に安心感をもたらしていた。
創が湯気の立つ湯飲みに目を落としながら、ふと尋ねた。
「ご両親が見当たらないけど、外出中ですか?」
「はい。姉の麻衣のところに行っております。しばらく帰らないんです」
「じゃあ、アメリカ?」
「はい。あと……十二日ほどは戻りません」
「そうか」
創はうなずき、少し姿勢を正した。
「実はね、僕、今年の春から鳳鳴(ほうめい)音楽大学で教授をやることになってね」
璃子は少し驚いて、顔を上げた。
鳳鳴――調律や楽器技術においては、国内でも一流の教育機関。
「……あそこ、調律師を育てる学科がありますよね?」
「そう。そこに入るんだよ」
創は湊に視線をやり、笑って続ける。
「それでね、これからの調律を湊に任せようと思ってるんだ」
湊は、どこか申し訳なさそうに目を細めた。
創が続ける。
「正月早々で悪いんだけど、もうすぐコンクールでしょ?練習も増えるだろうし、今月からはちょくちょく見せてもらった方がいいかなと思ってね。今日は僕も一緒にやるけど、次からは湊が一人で来ることになると思う」
創はやわらかく、だがきちんと向き合うような口調で尋ねた。
「それでも、かまいませんか?」
璃子は少しだけ目を見開いて、ほんの短く息を飲む。
――母なら、即座に断ったかもしれない。
けれど。
「……はい、大丈夫です。よろしくお願いします」
その返事に、湊がにこりと笑った。
まるで、「また、会えるね」とでも言うような――優しい笑みだった。
客人に対しての礼儀は、母からたたき込まれたものだったが、今はそれが逆に安心感をもたらしていた。
創が湯気の立つ湯飲みに目を落としながら、ふと尋ねた。
「ご両親が見当たらないけど、外出中ですか?」
「はい。姉の麻衣のところに行っております。しばらく帰らないんです」
「じゃあ、アメリカ?」
「はい。あと……十二日ほどは戻りません」
「そうか」
創はうなずき、少し姿勢を正した。
「実はね、僕、今年の春から鳳鳴(ほうめい)音楽大学で教授をやることになってね」
璃子は少し驚いて、顔を上げた。
鳳鳴――調律や楽器技術においては、国内でも一流の教育機関。
「……あそこ、調律師を育てる学科がありますよね?」
「そう。そこに入るんだよ」
創は湊に視線をやり、笑って続ける。
「それでね、これからの調律を湊に任せようと思ってるんだ」
湊は、どこか申し訳なさそうに目を細めた。
創が続ける。
「正月早々で悪いんだけど、もうすぐコンクールでしょ?練習も増えるだろうし、今月からはちょくちょく見せてもらった方がいいかなと思ってね。今日は僕も一緒にやるけど、次からは湊が一人で来ることになると思う」
創はやわらかく、だがきちんと向き合うような口調で尋ねた。
「それでも、かまいませんか?」
璃子は少しだけ目を見開いて、ほんの短く息を飲む。
――母なら、即座に断ったかもしれない。
けれど。
「……はい、大丈夫です。よろしくお願いします」
その返事に、湊がにこりと笑った。
まるで、「また、会えるね」とでも言うような――優しい笑みだった。