世界一孤独なピアニストは、恋の調律師に溶けてゆく
12月25日、0時。

スマホの時計が、静かに日付を跨いだ。

私は、一人で誕生日を迎えた。

25歳になった。

実家には、音がない。

ピアノの蓋も、閉じたまま。

小さな頃から、毎年この時期は――
年明けに控える重要なコンクールに向けて、

追い込み練習の真っ最中だった。

ケーキを囲んだ誕生日パーティなんて、
いつの間にか、なくなっていた。

スマホには、二通のメッセージ。

「璃子、誕生日おめでとう!今度、ケーキ一緒に食べよ〜♡」
岸本結花(きしもとゆか)から。

「おめでとう。コーヒーとケーキ、今日行けそうならぜひ」
安藤千紗(あんどうちさ)からの、ネットチケットのURL付き。

優しさが、胸に沁みた。
本当に、嬉しかった。

でも――

心のどこかに、ぽっかりと穴が空いていた。
そこから、冷たい風が吹いていた。

今日は、夜に仕事がある。
ホテルで開催される、ディナー付きのクリスマスコンサート。

ステージに立ち、ピアノを弾く。

客席には、きっとカップルたち。

笑い合う恋人たち。

落ち着いた雰囲気の、大人の夫婦。

そんな人たちの、幸福であたたかな時間のために。

私は音を紡ぐ。

空っぽの心で。
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