世界一孤独なピアニストは、恋の調律師に溶けてゆく
シャワーを終えたふたりは、バスローブのままソファにもたれ、
窓の外に広がる夜景を、言葉もなく眺めていた。

グラスの中で、シャンパンの泡が静かに弾ける。
その音さえも心地よく感じるほど、部屋の中は穏やかだった。

璃子の頬がほんのりと赤いのは、湯上がりのせいか、それとも…

湊は視線をそらせない。

何度も、触れたくなる。
何度も、キスしたくなる。

「……去年はね」

ぽつりと、璃子が口を開いた。

「気づいたら、誕生日が終わってたの。誰にも祝われなくて……家族にも、もう忘れられてて。
あの頃は、毎日、プレッシャーに押しつぶされそうで――」

言葉が途切れたところで、湊はそっと彼女の手を包んだ。

「でも、そのあとのお正月。創さんと湊さんが、こっそりパーティーしてくれたよね。あれも、すごく嬉しかったよ」

璃子の声が、少し震えた。

「でも今日は……人生で一番、幸せな誕生日」

一拍おいて、璃子は湊の方を見つめた。

「……湊さん?」

「ん?」

その問いに、湊が柔らかく応じると――

璃子は、少し照れたように笑いながら、まっすぐ言った。

「ありがとう。……愛してる」

湊は、言葉の代わりに、そっと璃子の頬に手を添える。
そして、静かに、ゆっくりと。

「俺も、愛してるよ」
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