世界一孤独なピアニストは、恋の調律師に溶けてゆく
ベッドの傍ら、静かにノックの音が響いた。
湊が応じると、制服をきちんと着こなしたホテルスタッフが、銀のカバーに包まれた朝食を載せたカートを静かに部屋へと運び入れてきた。
「おはようございます。ルームサービスでございます」
彼は一礼し、動作も音も控えめにテーブルを整える。
美しい白のクロスがかけられた丸テーブルには、すぐに色とりどりの朝食が並べられた。
黄金色に焼き上げられたクロワッサンとブリオッシュ。
季節の果物をふんだんに使ったフルーツプレートには、熟したマンゴー、いちご、ブルーベリー、キウイの彩りが映える。
スクランブルエッグにはトリュフの香りがほのかに漂い、サーモンとアボカドが添えられた。
バターはエシレ、ジャムは果実感のあるアルザス産。
温かなポタージュと、香ばしいカフェラテに、フレッシュジュースの三種盛りまで。
「さすがスイートの朝ごはんって感じだな」
湊は感心しつつ椅子を引き、璃子の背に軽く手を添えて座らせた。
璃子は、昨年の誕生日に結花がプレゼントしてくれた、身体を締めつけない柔らかな素材のワンピースに着替えていた。
ウエストに軽くリボンが結ばれたその一着は、華美ではないけれどどこか可憐で、彼女の今の心情によく似合っていた。
バスローブから着替えてきたことが少し恥ずかしかったのか、ふわりと袖を握るようにしてテーブルにつく。
「……いただきます」
声はか細く、そしてどこかよそよそしい。
璃子はパンを手に取りながら、湊と目を合わせようとしない。
湊はそんな様子を少し笑って見つめていたが、つい言葉が漏れる。
「そんなに引きずる? 昨晩のこと」
「……別に」
「可愛いけどさ」
璃子は、パンの端をかじりながら、ちらりと湊の顔を見てから、すぐに視線を逸らす。
「だって……」とぽつり。
湊は、コーヒーカップを口に運びながら、にやりと悪戯っぽく笑った。
「本当は今日から毎日、可愛がってあげようと思ってたのにな」
「……いちいち言わないで」
璃子はバターを塗ったパンを頬張ると、わずかに耳まで赤く染めた。
「言ったほうが可愛い反応見られるからさ」
そんなことを言いながら、湊はテーブル越しに彼女の手をそっと取る。
璃子は一瞬びくりとしたが、振り払うことはせず、ゆっくりと目を伏せた。
外の景色はすっかり朝の光に包まれ、雲一つない青空がどこまでも広がっていた。
街の喧騒も、この高層階までは届かず、テーブルの上には静けさと温かさが漂っていた。
ふたりは朝食を取りながら、少しずつ視線を交わすようになり――
昨晩とは違う、けれど確かにつながっている“ふたりの朝”が、穏やかに始まっていた。
湊が応じると、制服をきちんと着こなしたホテルスタッフが、銀のカバーに包まれた朝食を載せたカートを静かに部屋へと運び入れてきた。
「おはようございます。ルームサービスでございます」
彼は一礼し、動作も音も控えめにテーブルを整える。
美しい白のクロスがかけられた丸テーブルには、すぐに色とりどりの朝食が並べられた。
黄金色に焼き上げられたクロワッサンとブリオッシュ。
季節の果物をふんだんに使ったフルーツプレートには、熟したマンゴー、いちご、ブルーベリー、キウイの彩りが映える。
スクランブルエッグにはトリュフの香りがほのかに漂い、サーモンとアボカドが添えられた。
バターはエシレ、ジャムは果実感のあるアルザス産。
温かなポタージュと、香ばしいカフェラテに、フレッシュジュースの三種盛りまで。
「さすがスイートの朝ごはんって感じだな」
湊は感心しつつ椅子を引き、璃子の背に軽く手を添えて座らせた。
璃子は、昨年の誕生日に結花がプレゼントしてくれた、身体を締めつけない柔らかな素材のワンピースに着替えていた。
ウエストに軽くリボンが結ばれたその一着は、華美ではないけれどどこか可憐で、彼女の今の心情によく似合っていた。
バスローブから着替えてきたことが少し恥ずかしかったのか、ふわりと袖を握るようにしてテーブルにつく。
「……いただきます」
声はか細く、そしてどこかよそよそしい。
璃子はパンを手に取りながら、湊と目を合わせようとしない。
湊はそんな様子を少し笑って見つめていたが、つい言葉が漏れる。
「そんなに引きずる? 昨晩のこと」
「……別に」
「可愛いけどさ」
璃子は、パンの端をかじりながら、ちらりと湊の顔を見てから、すぐに視線を逸らす。
「だって……」とぽつり。
湊は、コーヒーカップを口に運びながら、にやりと悪戯っぽく笑った。
「本当は今日から毎日、可愛がってあげようと思ってたのにな」
「……いちいち言わないで」
璃子はバターを塗ったパンを頬張ると、わずかに耳まで赤く染めた。
「言ったほうが可愛い反応見られるからさ」
そんなことを言いながら、湊はテーブル越しに彼女の手をそっと取る。
璃子は一瞬びくりとしたが、振り払うことはせず、ゆっくりと目を伏せた。
外の景色はすっかり朝の光に包まれ、雲一つない青空がどこまでも広がっていた。
街の喧騒も、この高層階までは届かず、テーブルの上には静けさと温かさが漂っていた。
ふたりは朝食を取りながら、少しずつ視線を交わすようになり――
昨晩とは違う、けれど確かにつながっている“ふたりの朝”が、穏やかに始まっていた。