世界一孤独なピアニストは、恋の調律師に溶けてゆく
演奏の合間、璃子はマイクを持ち、客席に向かって微笑んだ。
「今日は、普段このホールに来たことのない方も多いかもしれません。
私も、昔はここに足を踏み入れる日が来るなんて思ってもいませんでした」
客席のあちこちに、くすくすと笑いが起きる。
「でも、音楽って、本当はもっと自由で、もっと近くにあるものだと思うんです。
上手とかすごいとかじゃなくて、“気持ちいいな”とか、“懐かしいな”とか……
そういう感覚の中で自然に流れるもの。
今日はそんなひとときを、皆さんと共有できたらと思って演奏しています」
そこまで語った彼女の目線が、母の方へとわずかに向く。
言葉に出さなくても、その想いは届いていた。
「……これからも、こういう場所で、たくさんの人に音楽を届けていけたら。
たとえば、今日みたいに、“ちょっと楽しかったね”って思ってもらえたら、もうそれだけで充分です」
言葉は丁寧で抑制されていたが、その奥にある情熱と決意は、
彼女をよく知る者たちには、はっきりと感じられた。
**
そしてコンサート終盤——
KANERO代表の金城 創がステージに登壇し、簡潔に語った。
「このホールは、これまで“最高の音”を追求してきた場所です。
ですが、それを“限られた人”のものにするつもりは、最初からありませんでした。
今日のように、“音を愛するすべての人”に開く場でありたい。
そして、この音楽が、未来の誰かの夢の一歩になりますように。
ご来場、本当にありがとうございました」
客席から自然に沸き起こる拍手。
中には、まだ音の余韻にぼんやりと浸っている園児たちの姿もあった。
**
最後の一曲は、璃子がこっそり大切にしていた童謡『にじ』の静かなピアノソロ。
一音ずつ、心を込めて奏でるその旋律に、
璃子の「これまで」と「これから」が、そっと滲んでいた。
演奏が終わり、璃子は立ち上がってお辞儀をする。
その目は、まっすぐ客席の奥を見つめていた。
マイクなしで、彼女がぽつりとつぶやいた言葉——
「……ありがとう」
その小さな声は、なぜか会場全体に届いていた。
今日、ここからまた、璃子の音楽が始まっていく。
「今日は、普段このホールに来たことのない方も多いかもしれません。
私も、昔はここに足を踏み入れる日が来るなんて思ってもいませんでした」
客席のあちこちに、くすくすと笑いが起きる。
「でも、音楽って、本当はもっと自由で、もっと近くにあるものだと思うんです。
上手とかすごいとかじゃなくて、“気持ちいいな”とか、“懐かしいな”とか……
そういう感覚の中で自然に流れるもの。
今日はそんなひとときを、皆さんと共有できたらと思って演奏しています」
そこまで語った彼女の目線が、母の方へとわずかに向く。
言葉に出さなくても、その想いは届いていた。
「……これからも、こういう場所で、たくさんの人に音楽を届けていけたら。
たとえば、今日みたいに、“ちょっと楽しかったね”って思ってもらえたら、もうそれだけで充分です」
言葉は丁寧で抑制されていたが、その奥にある情熱と決意は、
彼女をよく知る者たちには、はっきりと感じられた。
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そしてコンサート終盤——
KANERO代表の金城 創がステージに登壇し、簡潔に語った。
「このホールは、これまで“最高の音”を追求してきた場所です。
ですが、それを“限られた人”のものにするつもりは、最初からありませんでした。
今日のように、“音を愛するすべての人”に開く場でありたい。
そして、この音楽が、未来の誰かの夢の一歩になりますように。
ご来場、本当にありがとうございました」
客席から自然に沸き起こる拍手。
中には、まだ音の余韻にぼんやりと浸っている園児たちの姿もあった。
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最後の一曲は、璃子がこっそり大切にしていた童謡『にじ』の静かなピアノソロ。
一音ずつ、心を込めて奏でるその旋律に、
璃子の「これまで」と「これから」が、そっと滲んでいた。
演奏が終わり、璃子は立ち上がってお辞儀をする。
その目は、まっすぐ客席の奥を見つめていた。
マイクなしで、彼女がぽつりとつぶやいた言葉——
「……ありがとう」
その小さな声は、なぜか会場全体に届いていた。
今日、ここからまた、璃子の音楽が始まっていく。