世界一孤独なピアニストは、恋の調律師に溶けてゆく
「最後に——ご自身にとって、今日の演奏はどういう一日でしたか?」
一瞬、璃子は空を仰ぎ、春の風に髪をなびかせた。
そして静かに微笑む。
「……たぶん、“音楽っていいな”って、改めて自分が感じられた一日でした。
原点に戻れたというか……。
うまく言えないですけど、これからの私にとって、きっとすごく大事な一日になる気がしています」
記者たちはその言葉に頷きながら、シャッターを数枚切ると、静かに引き上げの空気を感じ取っていった。
湊が軽く璃子の背に手を添え、矢代が合図を送ってホール内へと誘導する。
その一連の動きもまた、まるでひとつの“アンサンブル”のように、自然だった。