世界一孤独なピアニストは、恋の調律師に溶けてゆく
空港に着くと、湊は「ちょっと、こっちの知り合いに挨拶してきますね」と言って離れていった。

璃子は「わかりました」と返し、ビジネスクラス利用客専用のラウンジへ案内された。

足を踏み入れると、柔らかな照明と静かな音楽、ゆったりとした革張りのソファ。
搭乗ゲートの喧騒とは別世界のような空間だった。

窓際の席に腰を下ろし、テーブルに置いた紙袋から、先ほど買ったプレゼントの包みを取り出す。

ひとつずつ丁寧に確認する。

リーフ型のチャームピアス――これは結花へ。
彼女はきっと、「うわ、璃子らしい〜」と笑って、即座に耳につけてくれるに違いない。

パールとローズゴールドのネックレス――これは千紗へ。
「ありがとう。大切にするね」と落ち着いた声で言ってくれる顔が、目に浮かんだ。

そして、ふと思い出す。
あのハートのネックレス。

(……あれは、私が自分に贈るべきものだったのかもしれないな)

けれどもう、買うことはない。
これからは、誰かの期待に応えるためじゃなく、自分の足で人生を歩いていく。
飾るためじゃなく、削ぎ落とすように。

外の滑走路では、機体がゆっくりと動いている。

その奥に沈む夕日は、まるで「終わりと始まり」の境界線のように、美しかった。
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