魔法のマーメイドクラブ
「ミイちゃん。ゆーっくり、目あけてみて」
「む、無理だよ」
「だいじょうぶ。アクアがいるヨ」

 小さく息を吸って、決心する。
 ええい、このさい、どうとでもなれる!

 思い切りまぶたを開いた。
 飛び込んできたのは、スカイブルーの空。それと、足元にはたくさんの建物がある。本の館に飾ってあった模型みたい。

「わぁーー。家が、町が、小さい。こんなところに、雲がある」

 手を伸ばすと、白いもこもこはフッとすり抜けた。
 幼稚園のころ、空のわたあめを触りたいって思ってたっけ。今、実際にやってるなんて夢のよう。

「気持ちいいデショー? アクア、空のサンポ大好きっ♪」

 誰もいない。誰も見ていない。ここでは、わたしとアクアちゃんだけが自由に遊べる。
 泳ぐ真似をしても、沈まないし溺れない。
 ヘタクソって、人に笑われることもないんだ。

「アクアね、小さいとき、鳥になりたかったンダ」
「鳥?」
「そう〜! 人魚が鳥って、笑えるデショ?」

 翼を広げるように、アクアちゃんが両手をパタパタと動かしている。

「ううん、その気持ちわかるもん。わたしも、魔法つかいになりたいって思ったことあるから」

 わたしも同じように手をふる。風がふわんときて、不思議な感じ。

「それ、いい夢ダネ」
「ほんとに?」
「最高デショ〜!」

 二人で笑い合いながら、くるくる回ったりスピードを上げて風に乗ったり。
 こんなに人目を気にしないでいられるなんて、初めて。

「鳥にはなれないケド、空は飛べる」
「え?」
「魔法つかいにはなれないケド、空を飛んでる!」

 ニッと笑うアクアちゃんにつられて、「ほんとだ!」と顔が晴れやかになる。
 挑戦する勇気と信じる心があれば、いつか夢は叶う。
 たとえ想像とはちょっと違っても、可能性はゼロじゃない。
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