魔法のマーメイドクラブ
 見上げた先に、見覚えのある男の子が立っていた。茶色の髪。少し上がったまゆ毛。キリッとした瞳。

 ーー霧谷くんだ!

 ハッとして思い出す。さっき、空から霧谷くんの家へ近づこうとしていたから。もしかして……。

「ここ、キリヤくんの家だったんだネ!」

 パンッと手をならして、アクアちゃんが嬉しそうにする。
 いつの間にか、消えていたはずの姿が戻っていた。落下している最中に、アメを落としたのかもしれない。アクアちゃんの方も、効果がなくなっている。

 だめだめ、よく考えて。霧谷くんと会えてハッピーなのはわたしも同じだけど、登場の仕方があまりにも異常すぎて。

「おまえら、今……、空から降って来なかった?」

 ドッキーンと心臓が飛び跳ねる。
 やっぱり、見られてたよね。なんとかごまかして、この場をやり過ごさないと。

「ウン!」
「ち、違うよ⁉︎ たまたま、そこの木に登ってたら、落ちちゃって」

 正直な反応をするアクアちゃんに、びっくりした。大きく首をふって、どうにか理由を探す。
 そうだった。アクアちゃんは、素直でカワイイ子だったの忘れていた。
 まだ疑うような顔で、霧谷くんがじっとわたしを見る。こんなに近くだと、緊張しちゃうよ。

「しかも、ここだけ雨が」
「た、たぶん気のせいだと……思う! 向こうから、水が飛んで……きたような」

 苦し紛れの言い訳に、霧谷くんが「ふーん?」と首をかしげた。
 このままだと、アクアちゃんが人魚だとバレちゃう!

「そうゆうワケで、おっ邪魔しまシター! また学校でネー♪」

 グイッと手を引かれ、ものすごいスピードで霧谷くんの家から飛び出す。
 途中から、お姫さま抱っこされている状態。手足は細いのに、アクアちゃんって力持ちなんだ。

「なんとかセーフだったネ!」
「だといいけど」

 変に思われてないかな。少し不安になる。

「あっ、いつまでも、ごめんね。もう自分で歩けるよ」

 いいのいいのと、けっきょく家の前まで連れて行ってくれた。
 なんだかお腹いっぱいの一日だったなぁ。
 楽しい空の散歩は、ドキドキハラハラで幕を閉じた。
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