魔法のマーメイドクラブ
 五才のとき、海で溺れたことがきっかけで、水が怖くなった。すぐお父さんが助けてくれたらしいけど、わたしの記憶ではちょっと違うの。

 金色の髪をゆらゆらさせて、神様が手を伸ばしてくれたの。

 小さいときの、数少ない記憶。
 もしかしたら、幻だったのかもしれないけれど。


 教室の席。肩下の黒髪をタオルでふきながら、先生の話を聞く。
 前を見ていると、ななめ前に座る霧谷くんがチラッと視界に入ってくる。

 まつ毛が長くて、鼻も高くて、カッコいいな。足も早いし、勉強もできる。
 クラスの女子の半分から、好きな人の名前に上がるほど、霧谷くんは人気者。

 わたしも例外じゃない。ちょっと気になっていたりする。
 さっき、お礼を言いそびれちゃった。あとで、ちゃんと伝えないと。


「なんであれくらい泳げないんだろう。カナトくん狙いで、ワザとだったりしてー」

『あざとい』そうクスクスと後ろから聞こえてきて、心臓がドキッとなる。
 この声は、このクラスで一番目立つ川辺里夢(かわべりむ)ちゃんだ。

 話しているのは、たぶん、わたしが溺れたときのこと。助けてくれたのが、たまたま霧谷くんだったから、気に入らないんだ。

 聞こえないふりをして、じっと前を向き続ける。
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