魔法のマーメイドクラブ
 臨海(りんかい)学校のお知らせが配られたのは、その二日後だった。
 秘密基地に集まって、みんなでお菓子パーティーをしているなか、わたしは黙って座っている。
 二泊三日のしおりをながめながら、ため息ばかり。

「リンカイガッコウって、ナニ〜?」

 ポッキーとポテトチップスを両手でつまみ、アクアちゃんがしおりをのぞき込む。

織川(おりかわ)小の五年生は毎年、海の合宿へ行ってるんだ。このあたりの地域に残ってる、伝統(でんとう)行事のひとつだよ」

 わたしの前で、カナトくんが手慣れた様子で化石掘りチョコをハンマーでたたいている。それ専用のグッズらしい。

「おお〜、なるホド! だからミイちゃん、ずっと元気ないんだネ」

 ほいっとポッキーを口に入れてくれるけど、それどころじゃないの。
 キャッキャと砂浜で遊ぶだけなら、問題ない。織川小の臨海学校は、そんなに甘くないの。
 班ごとに分かれて、三キロ先の沖を目指してリレーしないといけない。わたしが足を引っぱったら、班に迷惑をかけてしまう。
 もぐもぐと食べながら、むくっと体を起こした。

「……どうしよう。泳げる気がしない」

 十五メートル、しかもバタ足で泳ぐのがやっとなのに。
 三百メートル先で待つ人へ、たどり着く未来が見えないよ。

「俺がミイの立場なら、地獄だな」
「地獄ダー!」
「ひどいよぉ。二人とも、人ごとだと思って」

 半分泣き声になった。
 すると、アクアちゃんが貝殻のポシェットから、ごそごそと何かを取り出して。

「アクア、手伝ってあげるヨ? 【人魚の水かき】持っテル!」

 魔法アイテムを渡してくれる。
 このオシャレな手袋と靴下を身につければ、人魚みたいに泳ぐことができるらしい。
 すごく貸してほしいけど、わたしはそっとアクアちゃんへ返した。
< 31 / 85 >

この作品をシェア

pagetop