魔法のマーメイドクラブ
 夏休みに入って、臨海学校へ行く前日。
 緊張する心を落ち着かせながら、わたしは家のチャイムをならす。グレーのスタイリッシュな家から、カナトくんが出て来た。

「いらっしゃい」
「お、おじゃまします」

 ロボットみたいに歩きながら、部屋の中へ入る。
 今日は、わたし一人。アクアちゃんが用事で集まれないから、カナトくんの家で泳ぐ練習をさせてもらうことになったの。
 一度はムリだと断ったんだけど、本番は明日だからって。背中を押されて。

 階段を上がって、カナトくんの部屋へ着いた。勉強の本がぎっしりある。その本棚を動かすと、また棚がでてきた。どうやら、二重構造になっているみたい。

 魔法グッズがたくさん飾られている。前に教えてくれたローナ・リッチのものかな。魔法学校の制服とか、魔法の杖。横の棚には、いくつか石もあった。
 うわぁ……、カナトくんの部屋って感じだ。クラスの子たちは、想像ができないだろうな。

 初めてのことだらけで、頭の中が真っ白になる。
 ただでさえ、アクアちゃんがいるから、会話ができてるようなものなのに。二人きりなんて、なにを話したらいいんだろう。

「そんな緊張しなくていいよ。誰も入って来ないから。今、家にミイと俺しかいないし」
「え⁉︎」
「両親、仕事だから」
「そ、それは……一大事」
「人に見られたくないんだろ? 練習してるところ」
「う、うん。そう……なんだけど」

 別の意味で、余計に意識しちゃうよ。
 アクアちゃんが貸してくれた【水たまり石】を、ベッドの横に置く。
 ぐんぐんと大きくなって、あっという間に小さなプールができた。部屋の端から端まで、全部がピンクのスライムにおおわれている。

 机や本棚の上に乗っかっているけど、スライムみたいなところへフニョンと顔を入れると、しっかりプールだ。
< 45 / 85 >

この作品をシェア

pagetop