魔法のマーメイドクラブ
 海の真ん中で、アクアちゃんがなにかしている。両手を広げて、大ジャンプ。水の中へもぐると、波がキラリと虹色に光った。魔法を使っているのかもしれない。
 だけど、クジラはそのままで、海も変わらない。
 そのとき、目に飛び込んできたのはーー。

「りっちゃん!」

 大きな口を開けるクジラの前で、りっちゃんと数人の子がもがいているのが見えた。
 吸い込まれそうになりながら、必死に逃げようとしている。泣き叫んでいる。

 わたしは、黙ってここにいるだけでいいの?
 逃げてばかりで、いいのかな。
 自分が踏み出さなきゃ、なにも変わらない。

「なにしてんの⁉︎ 食べられるよ!」

 足を片方プールへ入れかけて、ビクッと止める。
 すぐそこまで、マナちゃんが来ていた。クジラよりだいぶ手前にいたから、端まで来れたんだ。

「今行ったら、道連れだよ! あんなのムリだよ!」
「……でも」
「私だって、できるなら助けたいよ。助けたいけど」

 不可能だって表情だ。マナちゃんの言うことは、間違っていないけど。
 クジラを止めようと、カナトくんが黒い体へよじ登ろうとしている。その近くで、アクアちゃんが魔法を使うのが見えた。
 チームアクアの二人が頑張っているのに、わたしだけここにいられない。

 プールのヘリを持つマナちゃんの手を、グイッと引っぱる。ケホケホと咳をしながら、マナちゃんはなんとか上がることができた。

「マナちゃんは、なるべく離れてて。わたし、やってみる」
「美波ちゃん!」

 全速力で走って、更衣室からアクアちゃんの貝殻ポーチを借りた。ウィングスニーカーを手にとったら、プール道具入れからデッキブラシを持ち出す。

「勝手にごめんね」

 空を高くジャンプすると、ウィングスニーカーで一気に海の真ん中までたどり着いた。

「カナトくん!」
「ミイ⁉︎」

 ふわりとクジラに降り立って、

「これ、使って!」

 クジラの上にいたカナトくんに、デッキブラシとウィングスニーカーを渡す。
 あとは、クジラを小さくすれば……!
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