魔法のマーメイドクラブ

エピローグ

 長い夏休みが終わり、新学期が始まった。五年三組のみんなは、何事もなかったように登校してきた。
 プールでの出来事は、すっかり忘れているみたい。誰一人として、その話題を出さない。
 りっちゃんとマナちゃんのギスギスした空気は、変わらないけど。

「……おはよう」
「あ、里夢ちゃん。……おはよう」

 いきなりあいさつをされて、戸惑いながらも、マナちゃんは返事をした。
 前は険悪な雰囲気だったけど、海のプールで助かったあと、マナちゃんは誰よりも先にりっちゃんの元へかけつけたの。
 お互いに意地をはっているだけで、本当は仲直りするきっかけを探しているのかもしれない。

「あっ、これ落ちたよ」

 前を横切ったとき、りっちゃんの机から鉛筆が転がった。とっさに拾ったんだけど、聞き間違いじゃないよね?

「……ありがと。ミイちゃん」

 みんなの前で、昔みたいにあだ名で呼んでくれた。
 そのあとは、相変わらず無表情で席に座っていたけど、少しだけ空気が優しかったの。
 どうしてなのかは、わからない。
 ただ、なにかが以前とは変わっていっている。

 廊下へ出ると、カナトくんがクラスの男子と話していた。目が合って、こっちへ歩いてくる。
 人の少ない方へ手招きされて、ちょっとドキドキした。なにか、用事かな?

「これ」

 手の中には、黒いチョーカーがあった。真ん中に、青い石がついている。これをくれるって。

「わたしに?」
「あんまり覚えてないんだけど、なんでか花池さんにあげようと思ってて。そんな気がして。ごめん、いきなり気持ち悪いよな」

 気まずそうに髪を触って、カナトくんが手を引っ込めようとした。
 花池さん。その呼び方に、押しつぶされそうになりながら。

「うれしい……すごく」

 受け取って、わたしは胸にギュッと抱きしめる。

「大事にするね」

 三人で笑い合った日は、ちゃんとカナトくんの心の奥に残っているんだ。
 みんなのように、たとえ忘れてしまっても。
 わたしたちは、ずっとチームアクアなんだ。
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