魔女とハイエナ令嬢/暗黒ギャング抗争ファンタジー ※掲載休止予定(アカウントが変?)
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ハイエナ監獄獄長、ロイ・ロドリゲス閣下はすでに年配で五十半ばを超えているようだったが、それでも古強者の風格が衰えない(元軍人で戦士としても有名だったらしい)。大柄で身長は二メートルに近く、マッチョな体格で眼光は鋭い。しかしその目は冷酷さや威圧感だけでなく、信念と哀しみをも映しているようだった。
サコンは畏怖と感動に撃たれたが、口を突いて出た「閣下、お目にかかれて光栄です」という言葉はほぼ本心で、とっさの強い印象と漠然とした尊敬の念を抱いたからだ。彼自身の二級勇者として魔族や盗賊と戦う立場や、このボーナの地方・方面に呼ばれてやってきた理由からすれば、この獄長閣下のような頼りになる人物は心強い。
「掛けたまえ。お茶でも飲みながら話そう」
勧められて、殺風景だが質朴で重厚な雰囲気の獄長室の応接ベンチに腰を下ろす。さしてクッションもない木製の椅子だったが、座面と背もたれには革が貼られて弾力がある。
サコンはいったん腰掛け、それからやや立ち上がって頭を下げる。ネロスミスもお辞儀して、相棒の横にひょいと腰掛けた。
「このたびは、治安回復問題と、こちらのエニチェリ商会との提携の前準備で滞在しております」
「うむ。遠路、ようこそ足を運んでくださった」
「また今後も、たびたびに私やアルパスの冒険者ギルド他の者がお世話になりましたりご相談にうかがうかと思いますので、その節は何とぞご高配をよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いしたい。もう、少しはご覧になったり、察しになられていることだろうが、ボーナの現状は危うく、よろしくない。アルパスとは岩場を隔てているが、我々は魔族の支配領域との緩衝地帯でもある。どうか、他人事と見捨てずに今後ともに助力を給わりたい」
型通りの挨拶をして、獄長ロドリゲスはサコンとネロスミスに、古びたテーブル越しに握手を交わした。
「もしよろしければ、こちらを案内しながらお話しようか? ここは監獄だけでなく、すぐ目の前の魔王や魔族に対抗する拠点要塞も兼ねているし、実物を見て貰いながら説明した方が」
「それでしたら、是非とも」
サコンは立ち上がって、ついに意を決して付け加えた。忘れたり言いそびれて貴重な機会を失わないために。
「こちらにサラ、いやサリーという処刑された魔女の墓所があると聞きました。実はアルパスに来ていたときに会って、子供ながら、付き合いがあったんです。こちらのボーナの政治事情も含めて、事件のことを教えて頂けたらと。差し支えなければ、供養の献花なども」
「うん? む?」
「こちらでどうだったかは存じませんが、何か複雑な事情もあったのだと聞いています。私にとっては、その、悪い人ではなかった。こちらのボーナで悪事を働いたとも知っていますが、自分からすると、その」
ロドリゲス獄長はしばし驚きと当惑の表情だったが、やがてほんのわずかな微笑を浮かべたようだった。
「では、そちらから先に行きましょう。手頃な説明の順路でも、途中の早く行ける場所にある。遺体はここにはないのですが、名残の場所に祠(ほこら)が置いてあるのです」
「そうなのですか? では墓地は別の場所に?」
「彼女には、魔王の一人クルスニコ侯爵との間に子供がいました。それで人の礼儀や人倫として、そちらに柩を丁重に送って差し上げた」
そのときサコンの頭の中で、地震と雷鳴が轟いたようだった。
ハイエナ監獄獄長、ロイ・ロドリゲス閣下はすでに年配で五十半ばを超えているようだったが、それでも古強者の風格が衰えない(元軍人で戦士としても有名だったらしい)。大柄で身長は二メートルに近く、マッチョな体格で眼光は鋭い。しかしその目は冷酷さや威圧感だけでなく、信念と哀しみをも映しているようだった。
サコンは畏怖と感動に撃たれたが、口を突いて出た「閣下、お目にかかれて光栄です」という言葉はほぼ本心で、とっさの強い印象と漠然とした尊敬の念を抱いたからだ。彼自身の二級勇者として魔族や盗賊と戦う立場や、このボーナの地方・方面に呼ばれてやってきた理由からすれば、この獄長閣下のような頼りになる人物は心強い。
「掛けたまえ。お茶でも飲みながら話そう」
勧められて、殺風景だが質朴で重厚な雰囲気の獄長室の応接ベンチに腰を下ろす。さしてクッションもない木製の椅子だったが、座面と背もたれには革が貼られて弾力がある。
サコンはいったん腰掛け、それからやや立ち上がって頭を下げる。ネロスミスもお辞儀して、相棒の横にひょいと腰掛けた。
「このたびは、治安回復問題と、こちらのエニチェリ商会との提携の前準備で滞在しております」
「うむ。遠路、ようこそ足を運んでくださった」
「また今後も、たびたびに私やアルパスの冒険者ギルド他の者がお世話になりましたりご相談にうかがうかと思いますので、その節は何とぞご高配をよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いしたい。もう、少しはご覧になったり、察しになられていることだろうが、ボーナの現状は危うく、よろしくない。アルパスとは岩場を隔てているが、我々は魔族の支配領域との緩衝地帯でもある。どうか、他人事と見捨てずに今後ともに助力を給わりたい」
型通りの挨拶をして、獄長ロドリゲスはサコンとネロスミスに、古びたテーブル越しに握手を交わした。
「もしよろしければ、こちらを案内しながらお話しようか? ここは監獄だけでなく、すぐ目の前の魔王や魔族に対抗する拠点要塞も兼ねているし、実物を見て貰いながら説明した方が」
「それでしたら、是非とも」
サコンは立ち上がって、ついに意を決して付け加えた。忘れたり言いそびれて貴重な機会を失わないために。
「こちらにサラ、いやサリーという処刑された魔女の墓所があると聞きました。実はアルパスに来ていたときに会って、子供ながら、付き合いがあったんです。こちらのボーナの政治事情も含めて、事件のことを教えて頂けたらと。差し支えなければ、供養の献花なども」
「うん? む?」
「こちらでどうだったかは存じませんが、何か複雑な事情もあったのだと聞いています。私にとっては、その、悪い人ではなかった。こちらのボーナで悪事を働いたとも知っていますが、自分からすると、その」
ロドリゲス獄長はしばし驚きと当惑の表情だったが、やがてほんのわずかな微笑を浮かべたようだった。
「では、そちらから先に行きましょう。手頃な説明の順路でも、途中の早く行ける場所にある。遺体はここにはないのですが、名残の場所に祠(ほこら)が置いてあるのです」
「そうなのですか? では墓地は別の場所に?」
「彼女には、魔王の一人クルスニコ侯爵との間に子供がいました。それで人の礼儀や人倫として、そちらに柩を丁重に送って差し上げた」
そのときサコンの頭の中で、地震と雷鳴が轟いたようだった。