魔女とハイエナ令嬢/暗黒ギャング抗争ファンタジー ※掲載休止予定(アカウントが変?)
4襲撃者と来訪者
1
サコンが魔族の襲撃を受けたのは、この都市ボーナに到着して一週間とたたないうちで、あのハイエナ監獄への訪問と見学から戻って三日目の晩だった。
「お前がサコン?」
夕食から戻ると、窓辺のふちに一人の少年が腰掛けていた。ただならぬ気配と雰囲気で、それが魔族だと直感する。
魔族は直射日光にアレルギーがあるらしく、その原因は人肉食のせいだとも言われている。彼らは人間を捕食しないと、健康や力を維持できないらしいとも。
服装は貴族の貴公子のようだったが。
驚いたのは、その面差しと雰囲気がサラと似ていたことだった。
(こいつ、まさかサラと魔王の子供か?)
いつか遭遇したり、自分から出向く可能性すら考えてはいたものの、あまりに急だった。サコンとしてはどうしたらいいかわからず、動揺して考えがまとまらない。
「お前、まさかサラ、サリーの?」
何が起きたかわからなかった。
目の前に少年が迫ったように見えた瞬間、顔に打撃を受けて吹っ飛ばされている。「殴られたのだ」と悟ったのは、壁にたたきつけられて床に落ちたときだった。
起き上がろうとしたところに、蹴りが飛んでくる。どっさに腕と闘気術でガードしたが、そのままもう一度壁にたたきつけられ、骨が軋む。
(こいつ、強い!)
ひょっとしたら、過去に倒した魔族の「騎士」どころか、ネロスミスと二人がかりの死闘でようやく倒した魔族男爵(小魔王)よりも強いかもしれなかった。本能と直感が「逃げるべきだ」と囁く。「馬や犬と魔族は血統が全て」という言葉もあるくらいで、この少年が魔族侯爵の息子であれば、たとえ人間との混血でも並の下級魔族より強いのもごく自然なのだろうか。
ぐいっと髪をつかんで、顔を上げさせられる。目が合うと少年の瞳には怒気がこもっていた。
「お前、あの女の「婚約者」だったんだって? あれは下等な人間の牝だったけどな、父上の愛妾だったんだよ。あの女は父上だけの下僕でオモチャなんだ、分際をわきまえろよ、この虫けら」
声は低いが、震えるような語調には怒りがみなぎっているようだった。
「侮辱しやがって。死んで償え!」
片手で楽々と持ち上げ、投げ飛ばされる。人間の少年の腕力ではないし熟練した戦士の闘気術でもない。上級魔族ゆえの単純な筋力だろう。
もう一回壁にぶつかって転げ落ち、内臓が悲鳴を上げる。とっさに頭を腕で守らなかったら死んでいたかもしれない。叩きつけられたショックで意識が朦朧とする。
「お前は、サラの?」
「殺してやるよ。食わないけどな。犬の餌にでもくれてやるのさ」
迫ってこようとする少年に「殺られる」と思ったとき、窓からもう一つの人影が飛び込んできた。彼女は知っている声で、たちはだかって制止しようとする。キラン・レイレイだった。
「ダメだよ、アレク!」
「どけ、そいつは殺す」
アレクと呼ばれた少年は強引に押しのけようとするが、キランは抱きつくみたいにして押しとどめる。様子からすると見知った仲らしい。キランの母親はサラの友人だったそうだから、子供同士が幼なじみや遊び友達でも不思議はない。
「ダメだって。ヤギョさんも、この人を呼ぶのに手を回してるんだから。勝手に殺したらダメ」
「こんな奴が役にたつか? ボクとヤギョと、ドワーフどもだけで、豚魔王と弁髪野郎どもの手下どもなんか皆殺しにしてやる!」
「でも、この人は連絡係なんだから! アルパスの冒険者ギルドとか、クリュエルのレジスタンスとまでいっぺんに喧嘩できる?」
「ぐ、それはそうだが」
「クリュエルのところのすごく強い奴も、もうこの町に来てるって話だよ。今は待って」
ようやく説得に聞く耳を持ったようだった。
「わかったよ。今日はキランに免じて、見逃しておいてやるよ。でも、次はない」
アレクは颯爽と窓辺から夜の闇に消えた。
サコンが魔族の襲撃を受けたのは、この都市ボーナに到着して一週間とたたないうちで、あのハイエナ監獄への訪問と見学から戻って三日目の晩だった。
「お前がサコン?」
夕食から戻ると、窓辺のふちに一人の少年が腰掛けていた。ただならぬ気配と雰囲気で、それが魔族だと直感する。
魔族は直射日光にアレルギーがあるらしく、その原因は人肉食のせいだとも言われている。彼らは人間を捕食しないと、健康や力を維持できないらしいとも。
服装は貴族の貴公子のようだったが。
驚いたのは、その面差しと雰囲気がサラと似ていたことだった。
(こいつ、まさかサラと魔王の子供か?)
いつか遭遇したり、自分から出向く可能性すら考えてはいたものの、あまりに急だった。サコンとしてはどうしたらいいかわからず、動揺して考えがまとまらない。
「お前、まさかサラ、サリーの?」
何が起きたかわからなかった。
目の前に少年が迫ったように見えた瞬間、顔に打撃を受けて吹っ飛ばされている。「殴られたのだ」と悟ったのは、壁にたたきつけられて床に落ちたときだった。
起き上がろうとしたところに、蹴りが飛んでくる。どっさに腕と闘気術でガードしたが、そのままもう一度壁にたたきつけられ、骨が軋む。
(こいつ、強い!)
ひょっとしたら、過去に倒した魔族の「騎士」どころか、ネロスミスと二人がかりの死闘でようやく倒した魔族男爵(小魔王)よりも強いかもしれなかった。本能と直感が「逃げるべきだ」と囁く。「馬や犬と魔族は血統が全て」という言葉もあるくらいで、この少年が魔族侯爵の息子であれば、たとえ人間との混血でも並の下級魔族より強いのもごく自然なのだろうか。
ぐいっと髪をつかんで、顔を上げさせられる。目が合うと少年の瞳には怒気がこもっていた。
「お前、あの女の「婚約者」だったんだって? あれは下等な人間の牝だったけどな、父上の愛妾だったんだよ。あの女は父上だけの下僕でオモチャなんだ、分際をわきまえろよ、この虫けら」
声は低いが、震えるような語調には怒りがみなぎっているようだった。
「侮辱しやがって。死んで償え!」
片手で楽々と持ち上げ、投げ飛ばされる。人間の少年の腕力ではないし熟練した戦士の闘気術でもない。上級魔族ゆえの単純な筋力だろう。
もう一回壁にぶつかって転げ落ち、内臓が悲鳴を上げる。とっさに頭を腕で守らなかったら死んでいたかもしれない。叩きつけられたショックで意識が朦朧とする。
「お前は、サラの?」
「殺してやるよ。食わないけどな。犬の餌にでもくれてやるのさ」
迫ってこようとする少年に「殺られる」と思ったとき、窓からもう一つの人影が飛び込んできた。彼女は知っている声で、たちはだかって制止しようとする。キラン・レイレイだった。
「ダメだよ、アレク!」
「どけ、そいつは殺す」
アレクと呼ばれた少年は強引に押しのけようとするが、キランは抱きつくみたいにして押しとどめる。様子からすると見知った仲らしい。キランの母親はサラの友人だったそうだから、子供同士が幼なじみや遊び友達でも不思議はない。
「ダメだって。ヤギョさんも、この人を呼ぶのに手を回してるんだから。勝手に殺したらダメ」
「こんな奴が役にたつか? ボクとヤギョと、ドワーフどもだけで、豚魔王と弁髪野郎どもの手下どもなんか皆殺しにしてやる!」
「でも、この人は連絡係なんだから! アルパスの冒険者ギルドとか、クリュエルのレジスタンスとまでいっぺんに喧嘩できる?」
「ぐ、それはそうだが」
「クリュエルのところのすごく強い奴も、もうこの町に来てるって話だよ。今は待って」
ようやく説得に聞く耳を持ったようだった。
「わかったよ。今日はキランに免じて、見逃しておいてやるよ。でも、次はない」
アレクは颯爽と窓辺から夜の闇に消えた。