魔女とハイエナ令嬢/暗黒ギャング抗争ファンタジー ※掲載休止予定(アカウントが変?)
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「あの子、ちょい「こじらせてる」んだよ」

 キランが語るには、あのアレクセイ・クルスニカは母親のサリー(サラ)が人間であることにコンプレックスがあって、抗争のイザコザで処刑されたことなどでも複雑な感情を抱いているらしい。

「あたしにはとっては、あんなふうでも小さな幼なじみの坊ちゃんなのさ。妹のルチアちゃんとかめっさ可愛いけど、やっぱパパが魔族の侯爵様だから、魔族上級の意識高い系」

 語るキランは「困った奴め」と微苦笑しながらも、どうも態度や標準的と物腰から仲は悪くないらしいと感じられる。さながら愛する弟分のことを話す姉貴分みたいな。キランが二十歳でアレクセイは十五歳だから、かつてのサリーとサコンと年齢差は似てもいる。
 さらにキランは驚くべきことを口にした。

「もう一人、サリーの娘の姉ちゃんのミチアがいる。そっちは父親が人間だから、召使いや下僕ってのが建前なんだけど。あのアレクって、見下してるくせにめっちゃくちゃ執着してるの。マザコンやシスコンが歪んでるみたいなので、それ言うと凄く機嫌が悪くなるから図星なんだろねえ。
それでルチアちゃんやミーシャ(ミチア)とは、あたしもよくお茶話なんかして、アレクのことはいい肴なんだよねえ。最初の頃は、あたしを男だと思って一緒にお風呂なんか入ってたし、あとであたしが女だって気がついてからは、ずっとそのころのことでからかってるんだ」

 キランはウッシシな笑い方で、さもおかしそうにする。向こう気が強くてイタズラ好きな性分なのだろうか。
 そしてサコンはできるだけ表情に出すまいとしたけれど、サラが人間の男性との間にも娘をもうけていたことに驚く。婚約破棄されたのだし、彼女の勝手や自由だろうし、さもありなんながらも、彼女にとっては自分が「ちょっと一時期だけ遊んだ年下の少年」でしかなかったのだと痛感してしまう。気が楽になるのとやるせんさが半分ずつ。

「同じクルスニコ侯爵の子供だったら、姉と兄が一人ずつ。他にもいるかもしれないけど、知られてるのはその二人だけ。姉の方は完全に魔族で嫌な奴だし、あんまり関わったらダメな奴。
ヤギョ・パーンの旦那は小クルスニコ子爵様だけど、お母さんがヤギ氏族の獣エルフだから、あたしたちも良くして貰ってるし、エニチェリ商会やドワーフのバヤジット旦那とも友達さ」

「ふむふむ」

「アレクって、ヤギョの旦那にも突っかかっていくんだよ。男同士のライバル心らしいけど、結局は優しいお兄ちゃんだから甘えたり慕ってるんだろうねえ。ヤギョさんは山羊エルフの食生活で人は食べないし、もし妹のルチアちゃんが魔族以外でエルフや人間の良い人を見つけたら、結婚の持参金くらいは出して世話してやってもいいって言っている。だけど、アレクからしたら「魔族の貴族の誇りはないのか!」なんて。
森を縄張りにしてるヤギョさんは、純粋魔族のパパの侯爵様や伯爵夫人(女伯爵)の姉の方からは、出来損ないや変人みたいに扱われてるんだけど、私らからするとよっぽど付き合いやすい相手だし」

「なるほど」

 どうやら、魔族たちにも複雑な家庭の事情があるらしかった。そもそもあのアレクセイ少年と妹のルチアは魔族とはいえ人間の混血ハーフなのだから、母親のサリーと親しかったサコンからすれば憎みきれない面もある。ただの敵や危険分子として割り切りづらいし、思いは複雑だった。
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