魔女とハイエナ令嬢/暗黒ギャング抗争ファンタジー ※掲載休止予定(アカウントが変?)
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 なんだかムシャクシャしたので、別のギャングの縄張りの近くにまでブラブラと歩いてきてしまっていた。アレクセイがあまり勝手に喧嘩や揉め事を起こすと父公爵や兄のヤギョ・パーンから文句を言われそうだが、もし相手方から絡んできたなら仕方ないと言い訳もできるだろう。
 どうせ、多くの人間のチンピラやギャングくらいではアレクセイとは勝負にならないし、月並みの魔族ならば、騎士くらいならばどうにでもなる。いつぞやは男爵に決闘で勝って、まだ十五歳で(魔族側の)準男爵の称号を得ている。
 ところが、余計に胸が悪くなる場面に出くわす。

「ぎょ、ぎょー」

 物悲しい哀悼の旋律を小声に囀りながら、担架の板に乗せた鮮魚人たち(彼らは深淵エルフと呼ばれる、魔族寄りのエルフの一種だ)。近くの村の者たちで、ボーナの都市内で共同の店を幾つかやっている農夫たちだったはず。
 様子からすると、誰か都市の城壁内で働いていた身内の者が不幸にあって、それで遺体の引き取りに来たらしい。

「どうしたんだ?」

 アレクセイはご挨拶に形ばかり訊ねた(いかに下賤の者らとはいえ、さすがに追い打ちして痛めつけたり愚弄する気にはなれなかったようだ)。そして手短な返事に言葉を失った。「誘拐されて行方不明だった娘が麻薬中毒で死にました。やったのはトンペイ魔王の手下どもです」「勤め先から攫われて、苛め抜かれて気が狂って死んだのです」。
 魔族侯爵トンペイ配下のギャングは鮮魚人も多かったはずだが(クルスニコ侯爵・子爵たちとは対立している)、同じ鮮魚人であっても、所属とグループで立場が違ったり、抗争したりお互いに食い物にしあっている。それならば格好の口実ができたことだし、軽くトンペイの豚魔王の手下ギャングどもに鉄槌してやろうかと思ったら。
 曰く「余所の流れ者の方が最後の薬代を恵んでくれて、苦しまずに死ねた。その魔術者の男が、その場で娘を苦しめたゲスどもを殺してくれたのが、せめてもの慰めです」と。アレクセイはなんだか先を越されたようで拍子抜けではあったが、それでも少しはトンペイギャングに制裁の焼きを入れてやらねばとは思う。たとえ流れの余所者から痛めつけられていたとしても、それは別件でアレクセイなどの知ったことでなかったし、彼としても支配者として舐められるのは気にくわない。

「で、その余所者は何人殺した?」

「ぎょ、ぎょ」

「そうか、殺したのは八人か。血の復讐が足りないなら、安心しろ、ボクも別腹で制裁しておいてやる。ほら、供養の足しだ」

 この際にはなむけの粒銀を渡してやって、アレクセイは足早に行動に向かう。鮮魚人たちはお辞儀したり感謝の言葉で見送っていた。
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