魔女とハイエナ令嬢/暗黒ギャング抗争ファンタジー ※掲載休止予定(アカウントが変?)
3
 こうして分水嶺、踏破すべき岩山地帯の上から、未知だった「向こう側の世界」を見渡せば、なんだか気候までが違って感じられる。比率として緑や木々がやや少ないようで荒野と荒れ地めいてもいて、たぶん降雨の量もアルパス側よりも少ないのだろう。
 遠目に、あっちこっちに緑が散らばっているのは村と畑なのだろうか。
 そして、手前に目につく城塞。あれが目指す都市ボーナだろう。およそ二重の城壁の周りにまで、家並みや緑が広がっている。規模からすればアルパスとあまり変わらないはずだ。遅くとも今日明日には辿り着けるはず。
 なにせ、秘策もあるから。

「おし、準備できたぜ」

 ネロスミスが、ロープウェイのロープにぶら下がった滑車をガチャリと揺らす。それはとても粗末で頑丈な代物だった。とても通常は人間の乗客を乗せるような代物ではない。これは貨物を滑り落とすための装置でしかない。

「特別許可貰えて良かったな! 「荷物」料金で、自分らで操作するから格安だぜ!」

 ネロスミスが誇らしげなドヤ顔なのも、彼の重力操作魔術のなせるわざだ。けれども誇るのはちゃんと到着してからにして欲しい。
 もしも「二級勇者」の資格がなかったら、絶対に許可は下りなかっただろう。普通の人間だったら自殺行為だ。

「油断大敵、な!」

「がってん、承知!」

 サコンは少しの不安と念押しでネロスミスを見つめた。タスマニアデビルな盟友は、自信ありげに「疑うのか」と見つめ返す。ここは信じるしかないし、万一のときには闘気術と魔術効果のあるアーマーで受け身でもとるしかない。

「よし、行こう」

「おうよ!」

 このゴンドラは、板と圧布を組み合わせただけで、しかもそれが猛スピードで滑車ロープを斜めに滑っていく。ほとんど落下だ。生きた心地すらせず、中継ポイントを挟んで四回。

「帰りは、無理せずに特典のポイントで乗客用にしよう。きっと俺たちも疲れているはずだ」

 青い顔のサコンに、ネロスミスは「そうか?」とニヤリとして笑った。


4
 彼女、サラの思いのほかに深刻な裏事情は、婚約してじきに察せられた。ひょっとしたら親父は「息子の婚約者」という口実と建前で、哀れな娘を匿って助けたかったのかもしれない。それに俺(サコン)にとっても、商家とはいえ貴族の家柄の娘と婚約すれば箔も付くし、男の場合には形式的な婚約で「ちょっとした間違い」があってもさほどの打撃にはならないだろう。
 サラの臍の下辺りの下腹部には、刺青のような模様の印があった。曰く「魔族に捧げられた女の烙印」なのだと。そして彼女はたしか十七歳で、とっくに処女ではなかった。
 婚約期間は短く、サラはやがて婚約を破棄してボーナへと、逃げるように帰っていった。俺の人生や考え方や感覚に消えない影響を残して。
 それまで一般教養のつもりで習わされていた槍にうちこむようになったのも、いつか魔族と対峙することを予感していたのだろう。それは現実になり、いつの間にか冒険者の勇士として名が上がるようになって、そっちが本業になっていた。
 とはいえ、一族の家業である医薬品のことを全く忘れたわけではなく、森やダンジョンで希少な魔法薬の原材料を探して回収したり、ときどきブローカーのようなこともやっている(もちろん最低限以上の勉強もした)。だから、薬売りの販売係や小店舗の店主や、村々を巡り歩くセールス担当くらいだったら引退しても勤まるはずだ。むしろ冒険者としてのステータスは、有利にさえ作用するのでないか。ちょっとしたゴブリン退治くらいでも出来れば、顧客を助けて宣伝にもなる。

(とうとう、ボーナに行くんだな)

 ことの発端である彼女、サラのことだけはずっと棚上げしていた。どこか怖いような、幻滅するような恐れもあったし、それだけデリケートの事だった。それが仇になって、つい先日になって彼女らしき女性が数年前に「魔女」として処刑されていたことを知るまで(たまたま包装用紙古い瓦版で知った)、「もう良い思い出でいいや」とすら思っていたのは間抜けな話だろう。
 どうも、彼女は良からぬことに関わっていたらしく(魔族を後ろ盾にしたギャングの抗争)、ボーナの都市や地域そのものも、あまり治安が良いとは言えない。魔族側の支配領域に近いこともあって、影響を受けやすいのだから。自分の家族や一族の誰かが「サラの処刑」のことを知っていたとしても、俺に話したがらなかったのは仕方ない。
 だが、今の俺はそれを知っているし、冒険ギルドの斡旋したミッションで「ボーナとの偵察と連携や共闘」を受けてしまった。何か運命めいたものを感じてしまうのは、センチメンタリズムなのだろうか?
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