魔女とハイエナ令嬢/暗黒ギャング抗争ファンタジー ※掲載休止予定(アカウントが変?)

2到着前から不穏な気配 ※残酷

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 ともあれ昼食は、ようやく降り立った岩場の麓でとることが出来た。ロープウェイや警備の者たちの食事場所に隣接して、外来で往き来する通行客たちのための簡易レストランがあったから。
 ただしメニューは三つだけ。どうやら従業員の食事と共通の日替わりであるらしく(近くの鉱山の労働者向けと同じ厨房で作っているらしい)、片や大きめのパンとクリームシチュー、もう一つは大型サンドイッチ。別売りのフライドポテトに、利用客には無料のお茶。簡素な料理ながら安い値段の割には量はあったし、味も悪くはなかった。
 どちらかと言えば「飯場」の延長のような善意のサービス施設で、そもそも日常にこんなところへ来る一般人は少ないのでこれで十分なのだとか。金持ちの商人や貴族は自分たちで弁当を持参していることも多いのだそうだ。

「一日に三回か四回くらい、ボーナへ客用の荷馬車が出ている。荷物を運んできて空になった荷車に乗せて格安で貰えるって寸法さ。天気や安全で、見合わせることもあるけど、そういうときはあっちのテントで夜明かしもできる。向こうの方は商人の荷車キャンプだから、あんまり近寄るな。泥棒と間違われて護衛と喧嘩になっても助けてやれんから」

 食堂の従業員は簡潔に要点をまとめて言うあたり、説明の仕方が手慣れている。ほとんど定型の何千回も繰り返して話した事柄で、未経験の来客への親切な助言も仕事のうちなのだろうか。

「ありがとう」

「もうそろそろ、三便が来そうだと思う。四便は日によったら来ないこともあるから、ボーナに行くんだったら乗っちまった方が良い。この辺は魔族やら盗賊やらギャングがいて夜間は危なくなるから、気をつけろ。こんな昼間でも安全とは言えんし、途中の荒れ地にアジトがいくつもあるみたいだから、道から外れるのはお勧めできない。
だから、荷馬車だって、あんたらみたいな武器持った旅人さんだったら喜んで乗せてってくれるだろうさ。襲われたときに戦える人数がいた方が良いし、武器持った人数がいた方が襲われにくくなる。三便四便はたまに間に合わないと、城門の近くで夜明かしすることもあるからな」

 話を聞くかぎり、越えてきた分水嶺のアルパス側と比べても、治安環境は良いとは言えなさそうである。もちろんアルパス側も完全に安全なわけではないにせよ、夜盗や盗賊は軍の戦士団と冒険ギルドで取り締まられて、散発的にしか事件は起きていない。無法者のアジトやゴブリン・鮮魚人の巣窟があったとしても、発見次第に討伐がなされることが多い(サコンとネロスミスも掃討作戦に参加したことがある)。ところが、こちらのボーナ側ではそれすらままならないらしかった。
 わざわざ隣のアルパスの冒険ギルドに「バウンティハンターの派出所を置かないか」と打診が来るところからしても、窮状を物語っているかのようだった。人員が比率として不足している上に、魔族と結託したギャングが横行しているらしく(今どきは政治家や有力者も、魔術者協会すらも買収されて乗っ取られている世の中だ!)、十分な取り締まりすらままならないらしかった。
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