双子王子の継母になりまして ~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~3
「それ以外にもなにかコツはありますか?」
ルイゾン様はあっさり答える。
「あるぞ。思いつきを話す時は、とにかく堂々と言い切ることだ。迷うな。迷えばそれが相手に伝わり、混乱させる」
簡単なようでいて難しい。
――そもそも焦らないでいられるかしら?
しどろもどろになって、なにを言っていいのかわからなくなる自分が容易に想像でき、気弱に呟く。
「でも……間違ったことを言ったら、大変ですよね」
「構わない」
ルイゾン様は私の顔を覗き込み、温かい声で続けた。
「ジュリア、間違った時も堂々としていろ」
「堂々と……」
「落ち着いて訂正すればいい。申し訳なく思うことなどひとつもない」
その言葉に、ルイゾン様のこれまでの道のりの一端を感じた。
上に立つ者が揺れたら、周囲の動揺を誘ってしまう。黒髪令嬢として生きてきた私がすぐに真似できるとは思えないが、覚えておこうと思った。
――お飾りでも王妃だもの。
「……肝に銘じます」
そう言うと、ルイゾン様は包み込むように笑ってくれた。
また、胸が苦しくなるのを感じ、私は視線を下げる。
――ふたりきりじゃないのに。どうしたのかしら。
戸惑っていると、かわいらしい声が聞こえてきた。
「こうかな?」
「こうじゃないか?」
顔を上げると、ロベールとマルセルがお互いの姿を鏡にして練習しているところが目に入る。
さっきのルイゾン様の態度を真似ているようだ。
「わかった。こうだぞ、マルセル。父上はさっき、こうしていた」
ロベールが顔をぐいっと上げた。
「ちがう! こうだ」
マルセルが負けじと口角を上げる。
私は吹き出しそうになった。ふたりともルイゾン様の特徴をよく捉えていたのだ。
ルイゾン様が率直に褒める。
「そうだ、ふたりともうまいぞ」
ふたりは高い声をあげた。
「わたし、うまくできた!」
「わたしもだ」
「わたしがうまくできたんだ」
「父上はふたりともっていったんだぞ」
ルイゾン様はかわいらしく張り合うふたりに割って入る。
「よし、そんなふたりには、ジャネット特製パンケーキが褒美だ。サロンに向かおう」
「パンケーキ?」
「やったあ!」
目で問いかけると、ルイゾン様が私にだけわかるように片眉を上げた。
なるほど。ジャネットに用意させてから、誘いに来たのだ。
ふたりの頑張りを受け止めてあげたいと思っているのは私だけでないことに、じんわりと胸が温かくなる。
「ジュリアも行くだろう?」
私は温かい気持ちが伝わるように、ルイゾン様に微笑みかけた。
「素敵なお誘いですわ」
ルイゾン様が、ほんのわずかに息を止める。
なにか気になることでもあったのかと口を開きかけたが、すでにジッとしていられない様子のロベールとマルセルが出口に向かって歩き出す方が早かった。
「母上! はやくいきましょう」
「父上もいっしょにめしあがりますか?」
「ああ。私も行くよ」
そう頷くルイゾン様はいつもと同じで、さっきのは気のせいだったかもしれないと納得する。
「じゃあ、皆でサロンに行きましょう」
私は幸せな気持ちで、三人を追うように大広間を後にした。
はしゃぎながら廊下を歩くロベールとマルセルを見守りながら、ルイゾン様が思い出したように口を開いた。
「そういえば報告があったんだが、ジャネットの兄上が王都で始めたカフェは繁盛しているようだ」
「よかったです。ジャネットも安心したでしょうね」
ジャネットの実家は、元はそれなりに大きな居酒屋だったが、お父様が知り合いに騙されたとのことで、一度店を手放した。ジャネットが宮廷の求人に申し込んだのはそういう経緯があったからだ。
あちこちで詐欺を働いていたその知り合いは捕まったそうだが、気落ちしたお父様は引退し、後継であるお兄様が、再建を望む声に応える形で王都にカフェを開いたと聞いていた。
「ジャネットがここを辞めるなんてことはないですよね?」
前任がいい加減だったこともあり、ジャネットに王子たちの食事係を一任するようになったのだが、今では私もルイゾン様もジャネットのおやつの虜だった。抜けられると困ると思って尋ねたのだが、ルイゾン様は笑顔を見せた。
「そんなつもりはないと言っていた。むしろ、これで憂うことなく今まで以上に王子たちのおやつを作れると張り切っていたよ」
「嬉しいですわ」
少し先を歩いていたロベールが立ち止まって、高い声を出す。
「パンケーキのにおいがします!」
バターの焦げる甘い香りが、回廊まで漂っていた。
マルセルも、嬉しそうに息を吸い込んで笑う。
「たべてないのに、もうおいしいです!」
ふたりは顔を見合わせて手を繋いだ。
「いこう、マルセル!」
「うん!」
「走らないで。パンケーキは逃げないわよ」
そう言ったが、はしゃぎながら急ぐふたりには、聞こえていないようだった。
ルイゾン様が当たり前のように私に手を差し出す。
「私たちも急ごう」
「は、はい」
ルイゾン様は優しく私の手を握り、サロンまでの短い距離をエスコートしてくれる。
――鼓動が激しいのは、速く歩いているから。バターの香りが幸せすぎるから。
先を歩くロベールとマルセルの笑い声。
隣にいるルイゾン様の眩しい笑顔。
――四人で過ごす時間の積み重ねすべてが私の宝物だ。
今はそれだけを思うことにしてサロンに向かった。
‡
そして、翌日。
誕生パーティの朝。
落ち着かない気持ちでいっぱいの私は、侍女頭のマリヴォンヌに髪を梳かれながら、鏡越しに問いかける。
ルイゾン様はあっさり答える。
「あるぞ。思いつきを話す時は、とにかく堂々と言い切ることだ。迷うな。迷えばそれが相手に伝わり、混乱させる」
簡単なようでいて難しい。
――そもそも焦らないでいられるかしら?
しどろもどろになって、なにを言っていいのかわからなくなる自分が容易に想像でき、気弱に呟く。
「でも……間違ったことを言ったら、大変ですよね」
「構わない」
ルイゾン様は私の顔を覗き込み、温かい声で続けた。
「ジュリア、間違った時も堂々としていろ」
「堂々と……」
「落ち着いて訂正すればいい。申し訳なく思うことなどひとつもない」
その言葉に、ルイゾン様のこれまでの道のりの一端を感じた。
上に立つ者が揺れたら、周囲の動揺を誘ってしまう。黒髪令嬢として生きてきた私がすぐに真似できるとは思えないが、覚えておこうと思った。
――お飾りでも王妃だもの。
「……肝に銘じます」
そう言うと、ルイゾン様は包み込むように笑ってくれた。
また、胸が苦しくなるのを感じ、私は視線を下げる。
――ふたりきりじゃないのに。どうしたのかしら。
戸惑っていると、かわいらしい声が聞こえてきた。
「こうかな?」
「こうじゃないか?」
顔を上げると、ロベールとマルセルがお互いの姿を鏡にして練習しているところが目に入る。
さっきのルイゾン様の態度を真似ているようだ。
「わかった。こうだぞ、マルセル。父上はさっき、こうしていた」
ロベールが顔をぐいっと上げた。
「ちがう! こうだ」
マルセルが負けじと口角を上げる。
私は吹き出しそうになった。ふたりともルイゾン様の特徴をよく捉えていたのだ。
ルイゾン様が率直に褒める。
「そうだ、ふたりともうまいぞ」
ふたりは高い声をあげた。
「わたし、うまくできた!」
「わたしもだ」
「わたしがうまくできたんだ」
「父上はふたりともっていったんだぞ」
ルイゾン様はかわいらしく張り合うふたりに割って入る。
「よし、そんなふたりには、ジャネット特製パンケーキが褒美だ。サロンに向かおう」
「パンケーキ?」
「やったあ!」
目で問いかけると、ルイゾン様が私にだけわかるように片眉を上げた。
なるほど。ジャネットに用意させてから、誘いに来たのだ。
ふたりの頑張りを受け止めてあげたいと思っているのは私だけでないことに、じんわりと胸が温かくなる。
「ジュリアも行くだろう?」
私は温かい気持ちが伝わるように、ルイゾン様に微笑みかけた。
「素敵なお誘いですわ」
ルイゾン様が、ほんのわずかに息を止める。
なにか気になることでもあったのかと口を開きかけたが、すでにジッとしていられない様子のロベールとマルセルが出口に向かって歩き出す方が早かった。
「母上! はやくいきましょう」
「父上もいっしょにめしあがりますか?」
「ああ。私も行くよ」
そう頷くルイゾン様はいつもと同じで、さっきのは気のせいだったかもしれないと納得する。
「じゃあ、皆でサロンに行きましょう」
私は幸せな気持ちで、三人を追うように大広間を後にした。
はしゃぎながら廊下を歩くロベールとマルセルを見守りながら、ルイゾン様が思い出したように口を開いた。
「そういえば報告があったんだが、ジャネットの兄上が王都で始めたカフェは繁盛しているようだ」
「よかったです。ジャネットも安心したでしょうね」
ジャネットの実家は、元はそれなりに大きな居酒屋だったが、お父様が知り合いに騙されたとのことで、一度店を手放した。ジャネットが宮廷の求人に申し込んだのはそういう経緯があったからだ。
あちこちで詐欺を働いていたその知り合いは捕まったそうだが、気落ちしたお父様は引退し、後継であるお兄様が、再建を望む声に応える形で王都にカフェを開いたと聞いていた。
「ジャネットがここを辞めるなんてことはないですよね?」
前任がいい加減だったこともあり、ジャネットに王子たちの食事係を一任するようになったのだが、今では私もルイゾン様もジャネットのおやつの虜だった。抜けられると困ると思って尋ねたのだが、ルイゾン様は笑顔を見せた。
「そんなつもりはないと言っていた。むしろ、これで憂うことなく今まで以上に王子たちのおやつを作れると張り切っていたよ」
「嬉しいですわ」
少し先を歩いていたロベールが立ち止まって、高い声を出す。
「パンケーキのにおいがします!」
バターの焦げる甘い香りが、回廊まで漂っていた。
マルセルも、嬉しそうに息を吸い込んで笑う。
「たべてないのに、もうおいしいです!」
ふたりは顔を見合わせて手を繋いだ。
「いこう、マルセル!」
「うん!」
「走らないで。パンケーキは逃げないわよ」
そう言ったが、はしゃぎながら急ぐふたりには、聞こえていないようだった。
ルイゾン様が当たり前のように私に手を差し出す。
「私たちも急ごう」
「は、はい」
ルイゾン様は優しく私の手を握り、サロンまでの短い距離をエスコートしてくれる。
――鼓動が激しいのは、速く歩いているから。バターの香りが幸せすぎるから。
先を歩くロベールとマルセルの笑い声。
隣にいるルイゾン様の眩しい笑顔。
――四人で過ごす時間の積み重ねすべてが私の宝物だ。
今はそれだけを思うことにしてサロンに向かった。
‡
そして、翌日。
誕生パーティの朝。
落ち着かない気持ちでいっぱいの私は、侍女頭のマリヴォンヌに髪を梳かれながら、鏡越しに問いかける。