男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される
――猛省だ。
昨夜の件だってそうだ。
自分の心が浮ついていたから、ああいういつもはしないミスをしたのだ。
漫画やドラマなんかでよくある、恋をした途端に腑抜けになってしまう主人公。リアルでもクラスや部活の仲間でそういう子はいた。
それを見て昔は呆れていたのに、まさに今自分がそうなっているのだと自覚して、私はスっと自分の心が冷めていくのを感じた。
(しばらく、ラディスと会うのは控えよう)
そして。
食器を返却し、そのまま食堂を出たときだった。
「!」
廊下の向こうから銀髪でメガネをかけた男がやってくるのが見えて緊張を覚える。
(ザフィーリ……!)
ドクドクと心臓が嫌な音を立てる。
なるべく目を合わさないようにすれ違って、ほっとした瞬間だった。
「あとで君に話がある」
「!?」
小さく、でも確かに聞こえたザフィーリの低い声に私は目を見開いた。
「トーラ? どうした」
思わず立ち止まってしまい、先を行っていたイリアスが振り返った。
「や、なんでもない」
私は小走りでイリアスに追いつきまた歩きはじめた。
……後ろは振り返れなかった。