男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される
色々と穴がある気はするが、多分、無理のない話になっているはずだ。
そして私は更に深く頭を下げる。
「だから頼む。今回は見逃してくれ!」
「……もう、彼女はいないということかい?」
「ああ、今朝早く金を持たせて帰らせたからな」
するとザフィーリの手がわなわなと震えていることに気づいた。
「じゃあ、もう僕は彼女に会えないということかい?」
「え? そ、そうだな」
すると、ザフィーリは急にこちらに距離を詰めてきた。
「トーラ、彼女にもう一度会わせてくれないかい?」
「は!? や、無理だから!」
「……なら、昨夜のことは団長に報告させてもらおう」
スっと背を向けさっさと歩き始めたザフィーリを私は慌てて引き止める。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「……」
ザフィーリが足を止めた。
「わ、わかった。会わせてやる。だから、団長に報告するのだけは勘弁してくれ!」
「……しかし、彼女はもう帰ってしまったんだろう?」
「や、多分まだ都にいると思う。今日は都の宿に泊まるって言ってたし」
「それは本当かい?」
声のトーンが一気に高くなり、彼は再びこちらに詰め寄ってきた。
「なんという宿だい?」
「えーと、確か……」
口から滑り出たのは、私がラディスから紹介されて1年ほど働いていたあの宿の名だった。