男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される
「乗馬訓練の最初の難関は馬への飛び乗りだ」
「え?」

 飛び乗り……おそらく先ほどのラディスのような乗り方だろう。
 ラディスは背があるし随分簡単そうに見えたけれど、今の私より少し背の高くなったトーラでも難しそうだ。

「頑張れよ」
「ああ」

 私は真剣に頷いた。


(ヤッバ……!)

 イェラーキはラディスの言う通りとにかく速かった。
 緑の景色がビュンビュン後ろに流れていく。
 ドドッドドッという規則正しい振動が全身に響く。
 胸がいっぱいで言葉が出てこなかった。

「大人しいが、大丈夫か?」
「なんか、感無量っていうか……」

 するとラディスが後ろでふっと笑うのがわかった。

「そうか。この感覚を覚えておくといい」

 私は頷いて、まっすぐに前を見た。
 今手綱を握っているのはラディスだけれど、自分も騎士になればこうして自分で馬を走らせることが出来るのだ。
 改めて早く騎士になりたいと思った。

 ……しかし。
 興奮が収まってきた頃だ。

(ヤバイ……お尻めっちゃ痛い)

 乗馬にお尻の痛みは付きものだと聞いてはいたけれど、一度気になってしまったらもうダメだった。
 結局我慢ができなくなって私はラディスを振り返った。

「ごめんラディス、一旦止めてくれ!」
「どうした?」
「そ、その……」

 速度が緩んでいくのを感じながら、どう言おうか迷っていると。

「ああ、尻が痛くなったか」
「!」

 はっきりと言われて顔が熱くなった。
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