男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される

「もし、もしな。オレがいきなりいなくなったら、イリアスはどうする?」

 なんでもないことのように笑顔で、少し冗談めかして訊いてみる。すると。

「は?」

 案の定、イリアスはぽかんと口を開けた。
 そりゃそうだと、言ってしまってから後悔した。

(何言ってんだ、私)

 彼にはさっぱり意味がわからないだろう。
 やっぱり今の無し、そう慌てて言おうとして。

「そんなの、探すに決まってんだろ」

 イリアスは怒ったように眉を寄せていた。

「え?」
「めちゃくちゃ探しまくって、絶対連れ戻す」

 そんな予想外の答えに、一瞬喉が詰まってしまったかのように声が出なくなった。

「――そ、そっか」

 やっと出た声は大分かすれてしまったけれど。

(そっか、探してくれるのか……)

 じわりと胸のあたりが温かくなった。
 先ほどまで感じていた寂しさが、少し和らいだ気がした。

 と、イリアスが呆れたように溜息を吐いた。

「んだよ、そんなに怖い夢だったのか? 俺が子守唄でも歌ってやろうか」
「い、いいよ。……ありがとな、イリアス」

 お礼を言うと、イリアスはにっと笑ってから再び天井に顔を向け目を瞑った。
 私も寝返りを打って、もう一度目を瞑る。
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