男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される
今夜のメイン料理は白身魚のムニエルで、久し振りの魚料理に上がったテンションが一気に落ちていくのを感じた。
「な、なんで」
「俺も見たわけじゃないから詳しくはわからねーけど、いきなり倒れたって」
イリアスがパンを千切りながら続けた。
「確かに最近ちょっと疲れてる感じはあったんだよな。顔色悪くてさ」
「そうだったのか。それは心配だな……」
キアノス副長の優しい笑顔が頭に浮かんだ。
ラディスと同じく最近その姿を見ていないけれど、すぐに良くなるものだったらいいと思った。ラディスもきっと心配しているに違いない。
しかし、そこでイリアスは笑った。
「まぁでも聖女様がいるし、きっとすぐに治してくださるだろ」
「え……」
私は小さく声を上げた。
(聖女様……?)
あのふわりとした金髪の彼女が浮かんで、ざわりと胸が嫌な音を立てた。
(……まさか、な)
「トーラ?」
「え? あ、そ、そうだな」
咄嗟に笑顔を作った、そのときだ。
「トーラ」
背後から覚えのある低い声に呼ばれたのと、イリアスが手にしていたパンをぽとりと皿に落としたのはほぼ同時だった。