男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される

 途端、ぶわっと先程イメージの中で見た黒煙が広がった気がしてゾワリと鳥肌が立った。
 実際にはそんなことはなかったけれど、ラディスがその中に手を入れようとして私は慌ててストップを掛けた。

「ちょ、ちょっと待って!」
「え?」
「ラディスは触らない方がいい気がする。一応、私が……」

 そう言うと、ラディスはクローゼットに手をかけたまま眉を寄せた。

「だが……」
「大丈夫」

 ……多分だけど。そう心の中で付け足して、私はラディスに退いてもらいクローゼットの前に立った。

(だって、私は一応聖女なんだから)

 それでも小さく喉がなってしまった。

 クローゼットの中から騎士見習いの憧れでもある騎士の制服を見つけると、その内ポケットに思い切って手を突っ込む。
 すぐに小袋のようなものが手に触れ、私はそれを取り出した。
 壁に取付けられた灯りに照らしてみると、手にすっぽりと収まるサイズのその布袋には綺麗な刺繍がされ、口の部分は可愛らしいリボンで留められていた。
 ほのかにハーブのような良い香りもして、見た目は確かに普通のサシェだった。
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