男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される
「……?」
そして、私は一度深呼吸をしてから元の姿へ戻れと念じた。
女の姿へと変わっていく私を見て、イリアスは驚くのではなく気味悪そうに顔を顰めた。
「誰だ、お前……?」
すぐに目を瞑り、私は先ほどキアノス副長の呪いを解いたときのように集中する。
彼の身体に触れてはいないけれど、一か八かだ。
するとあのときのようにイメージが浮かんできて、彼の身体にあの黒煙がぐるぐると巻き付いているのが見えた。
やはり、あの胸ポケットの位置が一番どす黒く歪んでいる。
( 呪いよ、消えろ! )
触れていない分、先ほどよりも強く、強く念じる。
そしてイメージの中で私はその黒煙に手を伸ばした。
途端、イリアスが苦しそうな呻き声を上げた。
「うっ……な、なんだ」
その身体が先ほどの副長のように淡く輝き出したのを見て、私は確信する。
行ける。これでイリアスを助けられる!
( 消えろ。今すぐにイリアスから出ていけ! )
――しかし、そのときだ。
ドンっ! と、背後から大きな音がして、私の集中はそこで途切れた。
「トーラ、何をしている! ここを開けろ!!」
それはラディスの声だった。