男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される
「じゃあ、やってみる」
「ああ」
返事と共にぐっと握り返されて、私はいつものように一度目を瞑り心の中で念じる。
( 浮け )
ふわりとすぐに身体が重力を無視して浮き上がるのがわかった。
次いで。
「うおっ」
そんな低い声がすぐ間近で聞こえた。
見れば、奴の両足も15cmほど床面を離れていた。この部屋の天井が低かったら頭をぶつけていたかもしれないと少しヒヤリとした。
重さや負担は特に感じない。
また新たに聖女の力の可能性を知ることが出来て私も嬉しくなった。
「行けるみたいだな!」
「あ、あぁ」
流石のラディス団長も自分の足元を見下ろし驚いたようにその目をパチパチ瞬いていて、普段の奴からは考えられないその様子に笑いそうになってしまった。
「少し移動してみるよ」
「わかった」
手を握ったまま、ふよふよと部屋の中を移動してみる。
特に問題はなさそうだ。……それにしても。
(なんか、ダンスのエスコートでもしてるみたいだ)
いつもとは完全に立場が逆転していて、すこぶる気分が良かった。
調子に乗って訊いてみる。
「どうする? このまま外に行ってみるか?」
「え?」