男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される
「なあ、フレージア。前の聖女様のこと、訊いてもいいか?」
「はい。私が知っていることでしたらお答えします」
聖女について知りたいことはたくさんある。
思わずごくりと喉が鳴っていた。
「前の聖女様が現れたのって、どのくらい前なんだ?」
「300年ほど前と聞いています」
「300年……」
(日本でいえば、江戸時代くらいか……?)
こちらの世界と向こうの世界で同じ時が流れているとは限らないけれど。
私はドキドキとしながら続ける。
「その聖女様の名前は……?」
するとフレージアは優しく微笑んだ。
「サクラ様です」
私は息を呑む。
――瞬間、あの薄紅色の花びらが目の前に舞う幻影を見た気がした。
おそらく。
いや、多分確実に、前の聖女も私と同じ日本人だったのだ。
フレージアが誇らしげに続ける。
「そのお名前をいただき、この村の名は『サクラ村』と言います」
「サクラ村……」
――胸が熱い。
この異世界に、日本のあの美しい花の名が息づいているなんて。
「……桜は、私の生まれた国の花なんだ」
小さく言うと、フレージアが目を大きくした。
「花の名なのですか」
「ああ。すごく、すごく綺麗な花で……そうか。前の聖女様はサクラさんて言うのか」
この世界に来てから見ていない、あの儚くて美しい花を思い出してつい目が潤んでしまった。