男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される

「好きなのか?」
「へ?」

 顔を上げると、月明かりに照らされた深い緑が私を見ていた。

「あの男のことを好いているのか?」

 一瞬ぽかんとしてしまってから、ぶんぶんと繋いでいない方の手を振る。

「まさか! 違う違う。ただ凄く気のイイ奴だから、時々申し訳なくなるんだ」
「……そうか」

 ラディスは真ん円に近い月を見上げ続けた。

「お互い、バレるわけには行かないということだな」
「だな」

 私もその視線を追って頷く。
 少しの沈黙のあと、奴はぽつりと呟いた。

「月が綺麗だ」
「そうだな。……えっ!?」
「どうした?」

 私が変な声を発したせいでラディスが驚いたようにこちらを見た。

「いや、えっと」

 ――瞬間、あの有名な「月が綺麗ですね」の意味を思い出してしまったのだ。
 でもすぐにそんなわけがないと思い直す。
 ここは異世界で、その言葉の意味をこの男が知るわけがないのだ。

(こいつが、好きとかなんとか言うからだ!)

「なんでもないなんでもない! うん、今日の月はとびきり綺麗に見えるよな!」

 そう慌てて誤魔化し、私はもう一度煌々と輝く月を見上げたのだった。


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