男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される
その銀髪を見て、私はヤバと思った。
「ああ?」
案の定、イリアスが柄悪くそちらを振り向く。
その場の空気が一気にピリつくのがわかった。
――彼、ザフィーリは私たちと同期でイリアスと同様先日正式に騎士になった男だ。
いつもとにかく冷静な奴で、所謂陽キャなイリアスとは、水と油の関係、犬猿の仲というやつなのだ。
時間をずらしているのか、食堂で一緒になることはほとんどないのでまさか真後ろのテーブルにいるとは思わなかった。
その彼が不愉快そうに顔を顰め、掛けているメガネの位置を直した。
「こんなふうに下品に騒いで、聖女様に失礼だとは思わないのかい?」
「んだと?」
「君も奇跡的に騎士になれたのだから、その名を貶めるような振る舞いは慎みたまえ」
ガタンっと椅子から立ち上がったイリアスを見て私は慌てる。
「イリアス!」
はぁ、とザフィーリはわざとらしく大きな溜息を吐くとゆっくりと立ち上がった。
「そうやってすぐに熱くなるのも君の悪い癖だ。全く気分が悪い。僕は部屋に戻ることにするよ」
そう言うと、ザフィーリは空になったトレーを持ってさっさと行ってしまった。
ホっと胸を撫でおろす。
それは私だけではなかったようで、小さな溜息があちこちから聞こえてきた。
イリアスだけが、ザフィーリの背中を見つめながら拳を震わせていた。