男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される

 何か、来られない理由が出来たのかもしれない。
 合図自体、私の勘違いだった可能性もある。

(……折角だし、少し飛んでから戻ろっかな)

 そして、私は一応周囲に誰もいないことを確認してから元の姿に戻り夜空へと舞い上がった。

 今日は空全体が薄雲に覆われていて星はあまり見えないが、やはり夜風がとても気持ち良かった。
 でも、なんだかとても静かに感じられた。
 最近はいつもラディスと一緒だったからだと気付いてまた溜息が漏れてしまった。

「……戻るか」

 ぽつり呟いてゆっくりと高度を下げていく。
 その途中でふと気が付いた。寄宿舎の騎士団長の部屋に灯りがついている。

 そして、私は空中で固まった。

 カーテン越しに、ふたつの人影が見えた。
 その影が、昼間見たあのふたりのシルエットと重なった。

(嘘、だろ……?)

 ふたつの人影がゆっくりと近づいてひとつになるのを見て、それ以上は見ていられず私は逃げるようにまた空へと高く跳躍した。


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