男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される
イリアスが持ってきてくれたポタージュスープを飲んで、私はもう一度眠りについた。
熱を出すのは久しぶりだけれど、こういうときに見る夢は大抵悪夢だ。
得体のしれない何か大きなものが迫ってきて、逃げたいのに足が思うように動かない。
そんな私の前に死んだはずのお母さんとお父さんが現れて、私の代わりのようにその悍ましい何か大きなものに飲み込まれていく。
私は必死で叫んで、叫んで、でも何も出来なくて、ついには私まで飲み込まれそうになってもうダメだと思ったそのとき、頬に冷たい感触を覚えて私はハッと目を覚ました。
(夢……?)
ドクドクと心臓の音が煩い。
息を止めていたのか苦しくて深呼吸を繰り返していると。
「大丈夫か?」
そんな声が聞こえた。
ベッド横に人影があった。だが部屋が暗いせいでよく見えない。
もう夜になってしまったのだろうか。
「イリアス?」
「……違う」
その聞き覚えのある低い声とこちらを見下ろす深いグリーンに気付いて、私はガバっと起き上がった。
「ラディっげほっ、ごほっ!」
急に大きな声を出そうとしたせいで思いっきり咳き込んでしまった。
(なんで、こいつが……っ)