男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される


(なんか、昨日のことが夢みたいだ)

 元いた厩舎に駆け足で戻りながら私は昨日のことを思い出していた。
 熱のせいで所々記憶がぼんやりとしていて現実味がないけれど、でもあれは夢なんかじゃない。
 私たちは昨日、確かにお互いの気持ちを伝え合ったのだ。

(これって、両想いってことだよな)

 じわじわと今更ながら喜びがこみ上げてきた。
 両想い。なんていい響きだろう。うっかり口元が緩みそうになる。

(ってことは、私たち一応、恋人同士ってことになるのか?)

 恋人同士、カップル、彼氏彼女。……どれもなんだかしっくりこないけれど、でもきっとそういうことだろう。

 そこまで考えて、私はぴたりと足を止めた。

(ってことは、だ。今夜ふたりきりで会うのって、一応デートってことになるのか……?)

 これまで恋人がいたことがないので勿論デートの経験もない。
 デートと言えば、カップルが手を繋いで色んな場所に遊びにいくイメージだ。
 手は何度も繋いでいるし、きっと、多分、いつものようにただ空で話をするだけだろうけれど。でも。

(……なんか、ちょっと緊張してきたかも)


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