神託で選ばれたのは私!? 皇太子の溺愛が止まらない
残された私の胸には、まだ彼の熱が残っていたのに。

――あれは……なんだったのだろう。

静まり返った部屋に、クラリーチェ様の声が落ちる。

「……あなたね。」

私ははっとして彼女を見た。

その目は、笑っていなかった。

「聖女って、男を誘惑する生き物なのかしら?」

ぞくりとする声音。

私は慌てて首を横に振った。

「ううん……違います、私は……そんなつもりは……」

「ふぅん。」

クラリーチェ様は、赤い爪を唇にあてて、首をかしげた。

「でもレオナルトは、あなたに触れようとしていた。ねえ、見間違いかしら?」

私は言葉が出なかった。

違うと言いたい。でも、否定できなかった。

クラリーチェ様は微笑んだ。けれどその笑みは、底知れぬ闇を宿していた。

私は背筋が震えた。
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