神託で選ばれたのは私!? 皇太子の溺愛が止まらない
(……でも、こんなところで踊れるの?)

不安と期待が入り混じる胸の内。

いつもは“聖女様”と呼ばれ、気安く話しかけてくる人などいない。

でも今夜は、ただの一人の女性として――。

その時。

「失礼、踊っていただけますか?」

低く、優しい声がした。

振り返ると、仮面の男性が手を差し伸べていた。

誰なのか、まったく分からない。

でも、どこかで聞いたような声、見覚えのある立ち姿。

まさか……いや、そんなことはない。

私はそっと手を伸ばした。

「……はい、よろしくお願いします。」

手を取られると、そのぬくもりに、心がふわりとほどけた。

(私、今だけは――聖女じゃなくて、ただの女の子になれる気がする。)

音楽が始まる。

私は、仮面の騎士と、静かにステップを踏み出した。

でもやっぱり即席で覚えたステップは、覚えきれていない。
< 65 / 162 >

この作品をシェア

pagetop