花かげに咲く、ひとひらの恋
その時だった。

パシンッ――

乾いた音がして、頭上の木の枝が折れた。

思わず息を飲んだ瞬間、ふたりの視線がこちらを向いた。

「……ああ、蕾花。」

先に声をかけてくださったのは、霞様だった。

彼女は微笑みながら、何事もなかったかのように私へ手を差し伸べてくださった。

「あなたも来ていたのね。せっかくだから、一緒にお花見でもしましょう?」

その声音は、まるで以前からの友人を迎えるように、柔らかくて、あたたかかった。

「……はい。」

もちろん、断れるはずがなかった。

私は静かに頷いて、霞様の手をそっと取る。

三人で、並んで歩き始める。

けれど――

皇帝陛下は、一度も私を見なかった。

まるで、私はそこに存在していないかのように。

霞様にだけ向けられる笑顔。

交わされる会話、ふたりの歩幅。

私はただ、黙ってその隣を歩いた。

霞様の香と、春の花の匂いが、やけに胸を締めつけた。
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