野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)上
源氏(げんじ)(きみ)(おんな)(さん)(みや)様のお部屋から女御(にょうご)様のところに入っていらっしゃった。
突然だったので手紙などを片付ける(ひま)もない。
明石(あかし)(きみ)は近くにあったついたてをさっと引き寄せ、自分も一緒に隠れた。
取り出してあった紙を箱に入れて(ふた)をする。

皇子(みこ)様はお目覚めになりましたか。少し離れているだけでも恋しくなってしまう」
女御様は祖父君(そふぎみ)のことでお胸がいっぱいで、お返事がおできにならない。
(むらさき)(うえ)がご自分の離れにお連れになりました」
明石の君がお答えした。

「困ったことだ。あちらでひとりじめして、夢中になって大騒ぎしているのですよ。恐れ多い皇子様なのだから軽々(かるがる)しくお渡しになってはいけません。紫の上がこちらに上がって拝見したらよいのだ」
「まぁ、そんな。お屋敷の奥深くでじっとなさっているべき(ひめ)皇子(みこ)様でも、紫の上のところに行き来なさるなら問題はないでしょうに、まして(おとこ)皇子(みこ)様でいらっしゃいますもの。お屋敷の中をご移動なさって、何の問題がありましょうか。ご冗談でもそのような意地悪をおっしゃっては、紫の上がご気分を(がい)されます」

明石の君が紫の上の味方をするので、源氏の君はお笑いになる。
「そうですか。あなたたちに(まか)せて私は(だま)っているのがいいのだね。近ごろは誰もかれも私を仲間外れにして、私の話など余計なお節介(せっかい)だと言うのだからつまらない。あなただってそうやって隠れて私の悪口を言っていたのでしょう」
ついたてをずらすと、明石の君は柱のところにたいそう美しい様子で座っている。
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