野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)上
源氏の君は階段にいらっしゃるおふたりに気づいて、
「上級貴族がそのようなところに座っていてはいけない。さぁ、こちらへいらっしゃい」
と、場所を東の離れにお移しになる。
蹴鞠をしていた若者たちもそちらにお供した。
お菓子や果物が出て、若者たちは楽しそうにしている。
ちょっとした肴とお酒も出てきた。
衛門の督様はお酒を飲んでも酔うどころではなく、ぼんやりとお庭の桜の木を眺めていらっしゃる。
<姫宮様を思い出しているのだろう>
と、大将様は想像なさった。
<それにしてもずいぶんと端近くにいらっしゃったものだ。姫宮様のご身分にふさわしくない振舞いだと衛門の督も思ったことだろう。紫の上ならばそのようなお振舞いはなさらない。父君の姫宮様へのご愛情が薄いのも、そのあたりに理由があるのかもしれない。あどけない女性はかわいらしくもあるが、妻にするには心配だ>
姫宮様の軽率さにがっかりなさる。
でも、恋に夢中の衛門の督様は宮様の欠点にお気づきにならない。
<まさかお姿を拝見できるとは思わなかった。長年一途に恋い焦がれていた甲斐があったのだ>
と、むしろ運命をお感じになっている。
源氏の君は何もご存じない。
のんきに昔話をなさる。
「太政大臣とはいろいろなことで勝負をしたが、蹴鞠だけはどうしても勝てなかった。わざわざご子息に伝授なさったわけでもないだろうに、やはり血筋だろうか。目も追いつかないほど見事な足さばきでしたよ」
おおげさに衛門の督様をおほめになるので、苦笑いして謙遜なさる。
「実務ではお役に立たない血筋の家でございますから、蹴鞠などができたところで子孫はどうともなりませんでしょうけれど」
「いやいや、人より優っていることは何事もきちんと書き残しておいた方がよい。記録して子孫に伝えたらおもしろいだろう」
軽やかにご冗談をおっしゃるご様子がいつまでもお美しい。
<このような方とご結婚なさった姫宮様が、他の男にお心を動かされることなどあるだろうか。どうにかしてせめてご同情くらいはしていただける立場になりたいものだが>
考えれば考えるほど、姫宮様とのご身分の差を思い知らされ、つらくなってしまわれる。
うなだれたままご退出なさった。
「上級貴族がそのようなところに座っていてはいけない。さぁ、こちらへいらっしゃい」
と、場所を東の離れにお移しになる。
蹴鞠をしていた若者たちもそちらにお供した。
お菓子や果物が出て、若者たちは楽しそうにしている。
ちょっとした肴とお酒も出てきた。
衛門の督様はお酒を飲んでも酔うどころではなく、ぼんやりとお庭の桜の木を眺めていらっしゃる。
<姫宮様を思い出しているのだろう>
と、大将様は想像なさった。
<それにしてもずいぶんと端近くにいらっしゃったものだ。姫宮様のご身分にふさわしくない振舞いだと衛門の督も思ったことだろう。紫の上ならばそのようなお振舞いはなさらない。父君の姫宮様へのご愛情が薄いのも、そのあたりに理由があるのかもしれない。あどけない女性はかわいらしくもあるが、妻にするには心配だ>
姫宮様の軽率さにがっかりなさる。
でも、恋に夢中の衛門の督様は宮様の欠点にお気づきにならない。
<まさかお姿を拝見できるとは思わなかった。長年一途に恋い焦がれていた甲斐があったのだ>
と、むしろ運命をお感じになっている。
源氏の君は何もご存じない。
のんきに昔話をなさる。
「太政大臣とはいろいろなことで勝負をしたが、蹴鞠だけはどうしても勝てなかった。わざわざご子息に伝授なさったわけでもないだろうに、やはり血筋だろうか。目も追いつかないほど見事な足さばきでしたよ」
おおげさに衛門の督様をおほめになるので、苦笑いして謙遜なさる。
「実務ではお役に立たない血筋の家でございますから、蹴鞠などができたところで子孫はどうともなりませんでしょうけれど」
「いやいや、人より優っていることは何事もきちんと書き残しておいた方がよい。記録して子孫に伝えたらおもしろいだろう」
軽やかにご冗談をおっしゃるご様子がいつまでもお美しい。
<このような方とご結婚なさった姫宮様が、他の男にお心を動かされることなどあるだろうか。どうにかしてせめてご同情くらいはしていただける立場になりたいものだが>
考えれば考えるほど、姫宮様とのご身分の差を思い知らされ、つらくなってしまわれる。
うなだれたままご退出なさった。