野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)上
大将(たいしょう)様と衛門(えもん)(かみ)様は、途中までひとつの乗り物に同乗(どうじょう)してお帰りになる。
「やはりこの退屈(たいくつ)な時期は六条(ろくじょう)(いん)で楽しむのがよいですね。『また暇を見つけて、桜が咲いているうちにお越しなさい』と父も言っていましたから、今度は(まと)()て遊びでもいたしましょう」
大将様はにこやかにお話しになるけれど、衛門の督様はどうしても姫宮(ひめみや)様のことを話題になさりたい。
源氏(げんじ)(きみ)は今も東の離れでお暮らしなのですね。やはり(むらさき)(うえ)へのご愛情が格別なのでしょう。姫宮様はどうお思いなのでしょうか。上皇(じょうこう)様がとくに大切になさっていた方なのに、源氏の君のご愛情が薄いようではお気の毒です」

「とんでもない。そんなことはありませんよ。紫の上は幼いころから父が育てた人ですから、その延長で今もご一緒にお暮らしなのでしょう。姫宮様の方こそご正妻(せいさい)として大切になさっていますよ」
()(つくろ)ったことをおっしゃらないでください。何もかも聞いているのです。姫宮様はひどくお寂しそうなときがあるそうですよ。あれほど(とうと)い方でいらっしゃるのに。もったいないお(あつか)いではありませんか」
姫宮様がお気の毒で、つい()()がましいことを言ってしまわれるの。

「他にどれほどすばらしい女君(おんなぎみ)がいらっしゃったとしても、姫宮様おひとりを愛されるべきなのに」
独り言にしては挑戦的におっしゃる。
<姫宮様の婿君(むこぎみ)立候補(りっこうほ)したとは聞いていたが、やはり(あきら)められていなかったのだな。お姿を拝見してしまって恋心が再燃(さいねん)したのだろう>
と大将様はお困りになる。
「紫の上の離れに暮らしておられても、姫宮様のことを大切に思っておいでです。よその夫婦のことであなたがそんなに思い悩まなくてもよいでしょう」
それ以上のことはおっしゃらず、話題を変えてしまわれた。
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