騎士として生きてきた私が、皇子の甘い言葉に落ちるはずがないのに
「アレクシス……殿下……」

呼びかけることもできず、胸がいっぱいになる。

あの方が、今こうして目の前にいる。

騎士団長として。

そして、私の“上官”として。

――また、あの瞳を近くで見られる。

その事実が、なぜだか、嬉しかった。

鍛錬場の隅で、私は一人、剣を磨いていた。

任務帰りで刃こぼれした愛剣を、黙々と手入れするこの時間が好きだった。

「セイラ」

肩に、ぽんと優しい手のひらが触れた。

「はいっ」

反射的に振り返ると、そこにいたのは──

「アレックス……!」

つい、昔の名で呼んでしまい、慌てて口元を押さえる。

「すみません……今は、アレクシス殿下でしたね。」

アレクシス殿下は、ふっと目を細めて笑った。

「変わらないな、君は。そんなに慌てなくてもいい。俺にとっては、“セイラ”で、“君”であることに変わりはない。」

その柔らかい声に、胸の奥が少しだけ温かくなった。
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