宵にかくして
無表情で手紙を受け取った彼は、しばらく黙って視線を落とす。
封を開け、数行を目で追ったところで、ほんの一瞬だけ眉がわずかに動いた。
「……あの人の字だな」
そうぽつりと呟いて、彼は丁寧に手紙を折りたたむ。しなやかな指先に視線を奪われていれば、なあ、と真っ直ぐとこちらを見据えた彼に、低く問いかけられる。
「……何者、お前」
どくんっ、と心臓が一際大きく音を立てる。
……やっぱり、そう聞かれるとは思っていたけど。
でも、正直に話せることなんて、……ほとんどないのだ。
このひとにウソをつくのはとても心苦しいけど、……ぎとちなくも言葉を選んで、小さく笑みを添える。
「宗英さんとは、昔から少しご縁があって……ちょっとした知り合いなので、気を遣っていただいているだけ、です」
か細い声で告げれば、ふうん、と視線がよこされる。観察するような眼差しに、私みたいなのが宗英さんと知り合いなんて不自然だろうな……と苦笑いを浮かべることしかできない。
「……"ちょっとした"にしては、あの人の直筆を預かるのは軽くないと思うけど」
探るように目を細める彼の声はひやりと鋭い。
言葉の裏が読まれている気がして、あわてて首を横に振る。