宵にかくして
「ほ、ほんとうに、昔にすこし……お会いして、顔を知っていただいてるだけです……!」
苦しすぎる言い訳に、ひやりと背中に汗が伝う。
な、なにを言っても怪しいよ〜……もっといい言い訳を考えておくべきだった……!
あまりにも必死な私を哀れに思ったのか、彼は深追いせずにわずかに目を逸らして。
「ん、分かった。……あの人とお前のことに、俺が口出すことでもない」
その声はほんのりとやわらかくて、ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。
「、でも、なんであいつらから逃げてたの、お前」
再び心臓が大きく跳ねた。
……やっぱり、簡単に見逃してくれるようなひとではないらしい。
「……ひ、人見知りで。知らない人に声をかけられて、つい逃げてしまって……。失礼な態度を取ってしまってごめんなさい」
……なぎ兄とかや兄のことも、言えない。
言い訳を重ねることしかできない私に、彼は、ふ、と小さく息をもらして笑みを浮かべた。
……笑ったと言っても、口角を持ちあげるだけの、どこか掴みどころない笑みだけど。