宵にかくして




そもそも、こんなに広い寮に5人しか住んでないのは不自然だ。


……わからないことが多すぎる。
じっと彼を見上げてみると、ん、と小さく首を傾げられる。


さっきよりもほんのすこしだけ、やわらかい眼差しを向けられている気がするのは、自意識過剰かもしれない。

 

「それは、だめですよね……?」

「なんで?……むしろ、なんかおもしれーよ」


 
お、面白い……?!
どこか呑気と言うか、発言すべてに余裕がたっぷりと滲んでいる彼は、ふ、と片方の口角だけを綺麗に持ちあげる。


そのまま、なぜかゆっくりと距離を詰められて、背中に壁が当たった感触のあと、とん、と彼の手のひらが横に添えられる。


「っ、ぇ、……?!」

「……、なに、緊張してる?」

「ち、ちか……!」


……これは、なにかを試されている……?!


心臓の音が聞こえてしまいそうなくらいの至近距離で、……視線をそらしたいのに、それを追いかけるように艶やかな瞳に捕らわれる。


< 37 / 72 >

この作品をシェア

pagetop