宵にかくして



「ここに5人しか住んでない理由、知りたい?」

「っ、はい……。教えてください」


どこか茶化すように囁かれて、こくこくと頷くことしかできない。
 

なかば腕のなかに閉じ込められているこの状況が、まだうまく飲み込めていないけど、……ちょっと揶揄われているだけだろう。


その証拠に、向けられる笑みはどこか淡々としていて、挑発的な色が滲んでいる。
 


「俺の言うこと聞いてくれるなら、教える」



まっすぐな視線で射抜いて、薄い唇がゆっくりと開かれる。
─────“名前、呼んで"



「、名前?」


思わず拍子抜けしてしまう。
なにか、もっと大変なことを言われるのかと思っていたから。


……でも、このひとの名前、まだ知らない。


緊張からすこし震えていた手をぎゅっと握りしめて、初めて自分から瞳を合わせた。



「……な、なまえ、教えてください……!」



さっきなぎ兄が呼んでいるのは聞いたけど、……このひとから直接、教えてほしいって思ってしまうのは、私のワガママだ。


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