宵にかくして
すこし虚をつかれたように瞬きをして、彼は短く息を吐く。
そのあと、掠めるようにに小さく笑って、心地のいい低音がそっと鼓膜に響く。
「─────宵宮桜(よみや ろう)」
……よみや、ろう……。
耳の奥でやわらかく弾けて、とくり、胸の奥で心地よい鼓動を刻む。
「、よみや、ろう、さん……」
こころのなかで呟いていたつもりが、無意識に声に出ていたらしい。その声が思ったよりも掠れていて、か細くて、恥ずかしくなる。
……名前呼ぶだけなのに、なんでこんなに照れてるの……。
火照る頰を手のひらでぱたぱたと仰いでいると、耳にかかった髪をふわりと掬われる。
そのまま指先に髪を絡めて、至近距離で見つめてくる宵宮さんの表情はほぼ無で、……なにを考えているのか全くわからない……!
……もしかして、聞こえなかったのかな?
すごく小さい声だったし、宵宮さんに届かなかったのかも。
“名前を呼ぶ"─────……そうすれば、この寮のひみつも、……なぎ兄とかや兄のことも、詳しく分かるかもしれない。