宵にかくして
背の高い彼まで届くように、きゅっとローファーのかかとに力を込めて、背伸びしてみる。
その拍子にほんのすこし触れあった肩にどきどきしてしまう、……浮ついた自分をかき消すように、ただ真っ直ぐに彼だけを見つめて。
「宵宮、桜……さん……っ」
内緒話をするみたいに手をあわせて、こそりと囁いた。
……さすがに、聞こえた、よね……?
そのはずなのに、宵宮さんはまた無反応で、無言のまま見下ろしてくる。
長いまつ毛の影が白い頬に落ちて、視線が真っすぐに突き刺さる。
……うう、無反応がいちばん気まずいよ……!
恥ずかしさから胸の奥がきゅっと縮んで、思わず俯きかけた瞬間。
「……もっかい」
低い声が、耳のすぐ横でふわりと落ちた。
さっきの私と同じくらい、……息がかかるくらい近い距離。
どこか甘えるみたいなトーンで、やわらかく告げられたセリフ。
「……っ」
じわあっと顔が熱くなって、あわてて口を開く。
「よ、みやさん……!」
きゅっと目を瞑りながらも言い切ったら、ふ、とやわらかい毛先が鼻のあたりを掠めた。
そっと目を開ければ、覗き込んでくる宵宮さんの顔がすぐそこにあって。
「……お前に呼ばれると、心地がいい」
短くそう告げると、今度こそほんの少しだけ、ふっと口もとが緩ませる。
宵宮さんがあまりにも綺麗に笑うから、……一瞬の笑みがやわい残像になって、どきどきと胸の鼓動が跳ねる